5.8 放射線に強い細菌の染色体はちょっと違う!


図5-17 ラジオデュランスの染色体の分離

ラジオデュランスの染色体を酵素で切断した後、分子量ごとに分離したものです。矢印は、切断された染色体の断片を示しています。

 


図5-18 ラジオデュランスの染色体

ラジオデュランスの染色体を酵素処理しないで高分子量まで分離した後、それぞれの染色体を検出したものです。ラジオデュランスの染色体が、それぞれ多量体として存在していることがわかりました。第1染色体は、非常に大きいため解析できませんでしたが、第2・第3染色体と同様に、多量体になっていると考えられます。

 


図5-19 ラジオデュランスの染色体構造の仮説

ラジオデュランスの正確で効率的なDNA修復能を説明するため、3種類の環状DNAで構成されている染色体が菌体内で積層構造を取っているという仮説を考えました。この構造では、隣り合った染色体を利用することにより損傷したDNA領域を正確に修復することができます。

 


 デイノコッカス・ラジオデュランスは、「最も放射線に強い細菌」としてギネスブックに載ったことがあるものです。この細菌の染色体は、1つの細胞に、その生育時期により4〜10倍体(セット)として存在していますが、この細菌の放射線耐性の全容を解明するためには、細胞内での染色体の状態を知る必要があると考え、まず染色体構成を調べました。
 この細菌の染色体を、特定の塩基配列で切断する酵素で処理すると、13本のDNA断片に切断されました(図5-17)。これらの中で互いに隣り合う断片を見つけ出すことによって染色体の形を再構成したところ、この細菌の染色体1セットは3種類の大きさの異なる環状DNAでできていることがわかりました。普通の細菌の染色体は1種類の環状DNAでできていますので、この細菌は特殊な染色体構成をもつ細菌であることがわかります。
 さらに、この細菌のそれぞれの環状DNAを酵素処理しないで分離したところ、1個1個がバラバラに存在しているのではなく、同じ大きさのものが数個(1個〜6個)つながった多量体になっていることが明らかになりました(図5-18)。染色体が多量体で存在している細菌は他に知られておらず、この細菌の染色体が多量体を形成していることは放射線耐性と密接に関連していると考えられます。放射線耐性メカニズムを多量体形成という観点から説明するため、染色体構造のモデルを考えました(図5-19)。この染色体構造をしていれば、放射線などによりDNA損傷ができても、無傷の染色体領域を利用してDNAを修復しやすいと考えられ、この菌の効率的なDNA修復を非常によく説明できます。
 この細菌が放射線に強いのは、優れたDNA修復酵素をもつことによるものとばかり考えられてきましたが、修復酵素が効率的に働けるような染色体の多量体構造も、DNA修復に大きな役割を果たしていると私たちは考えています。


参考文献

M. Kikuchi et al., Genomic Organization of the Radioresistant Bacterium Deinococcus radiodurans: Physical Map and Evidence for Multiple Replicons, FEMS Microbiol. Lett., 174(1), 151 (1999).

ご覧になりたいトピックは左側の目次よりお選び下さい。



たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2000
Copyright(c)日本原子力研究所