5.9 イオンビーム照射実験の裏方、高精度線量測定技術の開発


図5-20 大面積均一照射場を用いたイオンビーム線量の同時計測システム

サイクロトロンからのイオンビームを二次元にビーム走査することによって100 mm×100 mmの均一強度の照射場が形成されます。全吸収型熱量計から得られるエネルギーフルエンス及びそれと同時に電荷測定器によって得られる粒子フルエンスを基にイオンエネルギーが実測されます。エネルギーが校正されていれば、粒子フルエンス率のモニタリングによってエネルギーフルエンス率がリアルタイムで測定できます。

 


図5-21 各種フィルム線量計のLET応答特性

イオンビームの線量計測に使用できる5種類のフィルム線量計について、単位線量あたりの応答値(吸光度変化量等)の電子線応答に対する相対比とLETとの関係を調べた結果です。線量計の種類によらずLETの増大とともに応答は同一の傾向で減少することがこれによって明瞭となりました。こうした成果によって線質の異なる放射線による照射効果を共通の尺度で評価する技術基盤が整ってきたと考えます。

 


 イオンビーム照射の研究対象はこれまでの半導体や無機物から最近では生物や有機物へと発展しています。これらの研究では吸収線量が照射効果を評価する上で共通の尺度となるので、イオンビーム線量を正確に測定する技術を確立する必要があります。
 しかし、通常の加速器ビームでは照射場が狭いだけでなく、場内での強度が不均一かつ不安定であるため、正確な測定が困難です。これを最小限にするためビーム走査による大面積の均一な照射場を作るとともに、線量の基準となる物理的測定手段としては、最適とみなされる電離箱が高線量率では適用困難のため、電荷・熱量同時測定法を採用しました。一方、被照射物質の深度方向のエネルギー分与がこれらの物理計測のみでは評価できないため、放射線化学反応を利用したフィルム線量計の積層を同時照射することによって、粒子フルエンスとともに吸収線量の正確な決定を可能にするシステム(図5-20)を実現しました。
 以上の結果、イオン種とエネルギーの広い範囲にわたって、±2%の高い正確度を持つ粒子フルエンス測定を可能にするとともに、フィルム線量計固有の不確かさと合わせて全体の不確かさが±5%以内の吸収線量計測技術を開発しました。また、広い線エネルギー付与(LET)の範囲にわたって多種類の線量計応答のLET依存性(図5-21)を明らかにしました。これらを通してγ線や電子線の照射効果とも精度よく対比できるイオンビーム利用の基盤づくりに貢献しています。


参考文献

T. Kojima et al., Fluence Measurements Applied to 5-20 MeV/amu Ion Beam Dosimetry by Simultaneous Use of a Total-Absorption Calorimeter and a Faraday Cup, Radiat. Phys. Chem., 53, 115 (1998).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2000
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