6.2 高感度・多元素・同時分析の新元素定量法を開発
   ―従来の1,000倍のガンマ線分解能―


図6-4 多重ガンマ線検出法の原理

多くの放射性核で、同時発生ガンマ線を2本以上出すことが知られています。これらの多重ガンマ線を、複数のガンマ線検出器で同時計測し、得られた2個のガンマ線エネルギー値を縦軸と横軸とする二次元マトリクス上に加算してピークを検出します。2軸各々の分解能は1 MeVに対し1 keVとすると1/1,000であるため、マトリクス上では百万分の1の分解能が達成されます。また、バックグラウンドはマトリクスの1部に局在し、ほとんどの部分で数カウント以下に押さえられるため、微弱なピークの検出が可能になります。

 


図6-5 多重ガンマ線検出装置の例

BGOコンプトンサプレッサーとゲルマニウム検出器を組み合わせたアンチコンプトンガンマ線分析器は、低バックグラウンド・高分解能を達成することができます。これを多数組み合わせて球状に配置した装置が多重ガンマ線検出装置です。原研にはタンデム加速器施設に、12台の分析器からなる多重ガンマ線検出装置“GEMINI”があります。

 


図6-6 二次元マトリクスの例

岩石標準試料(JP-1)をJRR-4の中性子により放射化、多重ガンマ線検出装置“GEMINI”においてガンマ線測定して得られた二次元マトリクス。最高ppbオーダーの152Eu核種が観測されました。

 


 1台のガンマ線検出器を用いる従来の放射性核種分析では、分解能は1 MeVに対し1 keVとすると約1,000分の1です。放射性核種は平均して10本オーダーのガンマ線を放出するので、少ない核種を含む試料の分析には問題ありませんが、数十核種を含む試料ではガンマ線の本数は数百本に達し、これらをすべて分離することは不可能になります。
 私たちは多くの放射性核種が2本以上の同時発生ガンマ線を放出することに注目し、この多重ガンマ線を同時計数して得られる二次元マトリクスを解析することにより、従来の方法に比べ1,000倍改良された百万分の1のエネルギー分解能を得ることができました(図6-4)。これは、いかに多くの核種が存在しても(自然界に存在が確認されている2,700核種が同時に存在したとしても)それらを完全に分離できることを意味します。
 この方法はこれまでに原子核高励起状態の研究にのみ使われてきましたが、今回初めて中性子放射化分析に応用し、工業技術院地質調査所発行の標準岩石試料JB-1aおよびJP-1試料の定量を多重ガンマ線検出装置(図6-5)を用いて行ったところ、化学分離等の処理なしに27核種の元素の同時定量に成功しました(図6-6)。この試料に含まれていなかった元素を含めると、最高49元素の同時定量が可能です。さらに、この方法ではバックグラウンドが大幅に低減するため、微弱なピークの検出が可能になり、実に存在比10-9(10億分の1)オーダーの核種の定量ができました。この新しい分析法は環境、宇宙・地球科学、医療など広範囲の研究分野に貢献することが期待されています。


参考文献

Y. Hatsukawa et al., Application of Multidimensional Spectrum Analysis for Analytical Chemistry, Am. Inst. Phys., CP 495, 429 (1999).

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