10.2 圧力容器の中性子照射脆化を音で知る


図10-4 遠隔操作型照射後超音波法測定システムの概略

照射された衝撃試験片上に探触子を載せ、超音波を発信させ、試験片の厚さを往復する超音波の伝達時間で測定します。

 


図10-5 延性−脆性遷移温度シフト量と超音波音速の関係

照射脆化量の指標である延性−脆性遷移温度が、中性子照射量とともに大きくなるとともに試験片中を伝わる超音波(横波5 MHz)の音速が減少します。このことから、試験片中を伝わる音速を評価することによって照射脆化の程度を知ることができます。

 


 原子力発電プラントの運転寿命が延長がされている一方で、原子炉圧力容器の健全性を監視するために炉内に入れた試験片(監視試験片)の数量が不足してきています。そのため、圧力容器鋼の中性子照射による脆化量を非破壊的にかつ合理的に評価する新しい手法の確立が急がれています。圧力容器鋼の照射脆化量の評価に非破壊的手法を用いることができれば、監視用の試験片を有効に利用できるばかりでなく、放射性廃棄物の低減にも役立ちます。ここでは、非破壊的手法として超音波を中性子照射された試験片に当て、試験片中を伝わる超音波の音速の変化を調べる方法を開発しました。
 大洗研究所ホットラボ施設に設置した遠隔操作型の照射後超音波測定システムの概略を図10-4に示します。ホットセルの外からマニプレータを用いた遠隔操作で、超音波を送受信する探触子を衝撃試験片に接触させ、超音波の伝達時間を測定します。さらに、これらの測定結果から試験片中を伝わる超音波の音速を求めます。試験は、中性子照射する前の非照射材、中性子照射により脆化した照射材、さらに、照射材を673 Kで焼鈍し照射脆化を回復させた照射後焼鈍材を対象に行いました。その結果、図10-5に示すように中性子照射に伴う脆化の進行とともに試験片中を伝わる超音波の音速は低下することがわかりました。これらのことから、中性子照射を受けた圧力容器鋼の脆化量を超音波測定によって評価できる見通しが得られました。


参考文献

T. Ishii et al., Nondestructive Evaluation for Characterizing Neutron Irradiation Embrittlement of Nuclear Materials by Ultrasonics, Proc. of the Joint EC IAEA Specialist Meeting on NDT Methods for Monitoring Degradation, Mar. 10-12, 1999, Petten, The Netherlands, 167 (1999).

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