11.1 実効線量の直接測定、人体によく似た感度の検出器開発


図11-1 NaI(Tl)検出器の形状による感度の方向依存性変化を概念的に示す図

一般的に、円柱形あるいは球形のものが使用されています。両端を半球形にし、長さを長くすると人体の方向特性に近づけることができます。最適形状は計算で解析し、決定しました。

 


図11-2 開発した人体に近い方向感度特性を持つNaI(Tl)検出器

NaI(Tl)結晶の直径は75 mm、長さが210 mmで、実効線量当量(HE)に適合した形状です。実効線量(E)では、直径60 mm、長さ255 mmが最適の形状となります。左側が頭部に相当します(物差しは30 cmのもの)。

 


図11-3 人体と検出器の方向依存性を比較した図

0度は鉛直上方(頭)、90度は水平方向、180度は鉛直下方(足方向)からの入射角を意味します。図より、開発した検出器は広いガンマ線エネルギー範囲、広い角度範囲で人体の実効線量当量(HE)の入射角度特性に非常によく一致していることがわかります。

 


 人体が同じ強さの放射線を受けた場合でも、放射線の入射方向、人体各部の組織や臓器の位置によってそれぞれが受ける線量に違いがあり、被ばくによる影響リスクを同じ尺度で比較評価することは非常に困難でしたが、人体に吸収された放射線による確率的影響を総合的に示す指標となる実効線量(当量)が考案され、現在、放射線の影響リスクの評価や放射線防護の分野で広く用いられています。しかし、現実には、人体の臓器・組織の受ける線量と関連のある実効線量(当量)は直接測定することが困難で、これまで、測定が可能な空気吸収線量を測定し、換算係数を乗じる方法が普通にとられてきました。この場合、換算係数は人体に入射する放射線の状況によりさまざまに変化する性質があるため、被ばく状況に応じた適切な換算係数を用いて的確に実効線量を評価することは簡単ではありません。
 私たちは、環境ガンマ線に対する実効線量(当量)に相当する値を直接測定できるよう、人体と似た入射方向感度を持つNaI(Tl)検出器の開発を目指しました。感度の入射方向特性については、人体へ入射する放射線による実効線量(当量)の方向依存性を計算によって解析し(図11-1)、人体の感度の方向依存性に合うような特殊な形状のNaI(Tl)検出器を製作し、また、感度のエネルギー依存性については、エネルギー特性を模擬できるエネルギー荷重関数(G(E)関数)方式を採用し、これらを組み合わせることによって人体とよく似たガンマ線感度を持つ実効線量(当量)検出器を実現することができました(図11-2)。これによってどのようなガンマ線場においても実効線量(当量)相当値を直接精度よく測定することが可能となりました(図11-3)。


参考文献

M. Tsutsumi et al., Development of a Detector for Measuring Effective Dose (Equivalent) for External Photon Exposures in Natural Environment, J. Nucl. Sci. Technol., 37(3), 300 (2000).

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