11.4 臨界時に放出される放射性物質を測る


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図11-10 TRACYベントガス配管系の概要

べン卜ガス配管系には、臨界時に放出する水素、NOx、放射性希ガスを測定する分析計、および放射能を含むミスト、放射性ヨウ素、放射性エアロゾルを分別して捕集する特殊なサンプラが取り付けられています。

 


図11-11 水素放出G値

ウラン溶液燃料の臨界時に放出する水素の発生は、核分裂時の放出エネルギーに比例します。直線の勾配はG値(分子数/100 eV)と呼ばれ、水素の気相放出量の指標です。

 


図11-12 131I の放出割合

臨界条件下で得たヨウ素‐131(131I)の放出割合(%)です。臨界時に放出する無機ヨウ素や有機ヨウ素は人体に摂取されやすく、また有機ヨウ素(約6割)は捕集し難いので、放射性ヨウ素の放出挙動を把握することは重要です。

 


 私たちは、核燃料サイクル施設の安全裕度と公衆被ばくの評価に資するため、TRACY(過渡臨界実験装置)を用いて、溶液燃料の臨界時における放射性物質の放出挙動試験を実施しています。TRACYでは、未使用のウラン溶液燃料を用いて、臨界条件下で水素発生と放射性物質(希ガス、ヨウ素、エアロゾル)の放出挙動を調べました。
 図11-10にTRACYのベントガス配管系に設置した各種の分析計や放射性物質の捕集装置を示しました。溶液燃料が臨界になると、核分裂片や放射線により水が分解され、生成した水素が放射性希ガスと共に気相に放出します。図11-11に放出した水素分子数と核分裂放出エネルギーの関係(G値)を示しました。図中のG値は、水素の爆発防止対策に役立つだけではなく、液面で水素の気泡が破裂して生成する放射性エアロゾルの発生機構の解明にも重要です。図11-12に放射性ヨウ素の気相放出割合の時間変化を示しました。図中の放出割合は、沸騰条件で測定した値ではないのですが、再処理施設の設計基準事故における割合(25%)に比較して著しく低いことがわかります。TRACY試験は、再処理工場など核燃料サイクル施設の安全性向上に役立つ研究として期待されています。また、JCOで発生した臨界事故への対応、事故原因の解明に、私たちの臨界安全研究の経験や知見が役立ちました。


参考文献

阿部仁他, 溶液燃料の過渡臨界事象に伴う放射性ヨウ素及び希ガス等の放出挙動の検討, JAERI-Tech 99-067 (1999).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2000
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