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水素が重水素の動きを妨げる
―金属中を水素と重水素が逆方向に透過する現象―




拡大図(51KB)

図2-10 水素と重水素の対向透過現象

重水素と水素は金属表面に解離・吸着し、一部の原子は再結合・脱離するが、解離・吸着した原子は濃度勾配に比例して金属内を拡散します。
図2-11 表面の水素原子によるブロッキング

水素の吸着・脱離速度は金属内の重水素拡散速度より十分速いため水素が表面で吸着・脱離を繰り返し、重水素が表面に移動できません。



図2-12 重水素の透過量に及ぼす水素分圧の影響

水素分圧が重水素分圧と同程度の場合は重水素単独透過時の透過量に対する比が1を超えます。水素分圧が104 Paより高くなると重水素の透過量は減少します。




 私たちは高温ガス炉の熱利用系として天然ガスの水蒸気改質による水素製造システムの技術開発を進めています。高温ガス炉では放射性物質であるトリチウムが発生しますが、一般にトリチウムや重水素を含めた水素同位体は金属中を透過することが知られています。水素製造システムの場合は炉心で発生した微量のトリチウムが熱交換器の伝熱管や水蒸気改質器の反応管を透過して、最終的に製品である水素中に混入する可能性があります。そこで、反応管を透過するトリチウム量をできるだけ少なくしたいわけですが、反応管内では多量の水素が存在するため、本研究では水素同位体であるトリチウムがどのように反応管を透過していくのかを調べました。
 実験ではトリチウムの代わりに重水素を利用しました。図2-10は重水素と水素がハステロイやインコネル等の合金内を逆方向に透過する様子を模式的に表したものです。重水素と水素は金属表面に解離・吸着し、原子状で金属内を拡散します。金属内では濃度勾配に比例して拡散し、表面に到達すれば再結合して再び流体中に脱離します。ここで、吸着・脱離速度は金属内の拡散速度より十分速いと仮定し、水素分圧が重水素分圧に比べて非常に高い場合を想定します。多量の水素が存在する表面では、水素の吸着・脱離が頻繁に繰り返されていると予想されるため、常に金属表面を水素が占有することになり、金属中を透過してきた重水素が表面に移動できず、流体中に脱離できないと考えました(図2-11)。そして、重水素の透過量に及ぼす水素分圧の影響を調べた実験と解析の結果から、重水素分圧に比べて水素分圧が高くなると重水素の透過量は重水素が単独で透過する場合に比べて減少することを示すことができました。また、重水素と水素の分圧がほぼ等しい場合には逆に重水素の透過量が僅かですが増大することも明らかにしました(図2-12)。
 本研究により、水素製造システムにおいては水蒸気改質器内で生成する水素の圧力が2×106 Pa以上であるため、改質器内の反応管を透過するトリチウム量が低減され、製造水素中のトリチウム量は製品として問題とならない量であることを示すことができました。< BR>



参考文献
武田哲明 他、インコネル600中の重水素―水素対向透過、日本原子力学会誌、43(8)、823 (2001).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2002
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