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金電極で負イオン生成効率を改善
―従来電極よりも30〜40 %の増加―




図3-7 セシウム添加型負イオン源の負イオン生成機構

ソースプラズマで生成された原子(H)や正イオン(H)は、セシウム蒸着により仕事関数の低下したプラズマ電極表面から電子を受け取り、負イオン(H)になります。



図3-8 仕事関数と負イオン生成効率(各種電極の場合)

電極上のセシウム被覆率を変え(電極温度で制御)、仕事関数を変えます。金電極で仕事関数が最も低下し、最も高い負イオン生成効率を得ました。また、負イオン生成効率は、仕事関数のみに依存し、材質の種類そのものには依存しないことを初めて明らかにしました。




 核融合プラズマの加熱や電流駆動に不可欠な中性粒子入射装置には負イオン源(水素または重水素)が用いられています。負イオン源では、ソースプラズマに面する電極表面にセシウムを付着させると負イオン電流が大幅に増加します。これは、セシウムの付着で仕事関数が低下した電極面での表面生成反応(H,H++ e → H-)が促進されるためです(図3-7)。セシウム被覆率を変えると仕事関数は変化し、最小仕事関数時に最大の負イオン電流が得られることがわかっています。仕事関数がさらに低くなる電極を用いることにより、負イオン生成効率の改善が期待できます。
  一般的に、仕事関数の高い金属ほど、セシウムが付着した場合の仕事関数が低くなる傾向にあります。しかし、イオン源内での各種の金属とセシウムを組み合わせた場合における負イオン生成効率については殆ど調べられていませんでした。そこで、図3-7に示すような半円筒形型(長さ340 mm、直径340 mm)のプラズマチャンバーを持つマイクロ波放電型の負イオン源を用いて実験を行いました。
 最初に電極材質の選定を行いました。レーザーを金属表面に照射したとき、仕事関数が低いほど多くの光電子が出てくることに着目し、数種類の金属板を負イオン源内に置き、セシウムが付着した場合の光電子電流を測定しました。その結果、金属固有の仕事関数が高い、金、ニッケルや銀でセシウム付着時の光電子電流が大きく、低い仕事関数が得られる見通しを得ました。
 そこで、金、ニッケル、銀、および従来電極のモリブデン、銅、タングステンで電極を製作し、仕事関数と負イオン生成効率を調べました(図3-8)。各電極上でのセシウム被覆率は電極の温度を変えて制御し、仕事関数を変化させています。その結果、到達し得る最小仕事関数は電極材質によって異なり、金、ニッケルでは、セシウム付着時に従来の電極材質の場合よりも低い仕事関数が得られ、同時に高い負イオン生成効率が得られました。金電極(モリブデン板に3 μmの金メッキ)では、1.44 eVの最小仕事関数が得られ、最大の負イオン生成効率を得ることに成功しました。その値は、従来電極に比べて30〜40 %高い効率です。さらに、負イオン生成効率は、電極材質ではなく仕事関数のみに依存することを初めて明らかにしました。以上の成果は、高効率負イオン源の開発に貢献できるものと期待されています。



参考文献
M. Kashiwagi et al., Optimization of Plasma Grid Material in Cesium-seeded Volume Ion Sources, Rev. Sci. Instrum., 73(2), 694 (2002).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2002
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