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γ線分光で探る原子核の魔法数
―中性子数40の68Niは二重閉殻構造をしていた―




図4-1 アイソマー測定器の概念図
 
重イオン核反応(70Zn+198Pt)で生成された分裂片(PLF)はSi検出器(透過型<ΔEと全エネルギー型:E)により核種が識別されます。Si(E)検出器に止まってから放出されるγ線のみがGe検出器で観測され、核反応直後に放出されるγ線はタングステン・ブロックで遮蔽されます。



図4-2 二重閉殻68Niの励起準位と中性子の軌道

8+アイソマー状態とその脱励起状態は、中性子数40の閉殻内にある中性子2つが閉殻外の軌道に励起してできた状態です。




 原子核には魔法数と呼ばれる数があります。魔法数では、ある軌道の席すべてが陽子(中性子)で占められて閉殻になり、原子核は安定します。どの数が魔法数になるかということは原子核の最も基本的な課題で、超重元素の合成や、宇宙における元素合成を解き明かす重要な鍵となります。
 Ni原子核は陽子数28の魔法数を持ちます。中性子過剰のNi領域の原子核は、不安定核における魔法数の性質を調べるために好都合な原子核です。しかし、これらの原子核は生成が難しく、また核種の識別も困難であったために、ほとんど手がつけられてきませんでした。
私たちは、タンデム超伝導ブースター加速器を用いて中性子過剰のNi原子核を生成しました。さらにアイソマー測定器(図4-1)を開発することにより、これらの原子核の励起状態から放出されるγ線の測定に成功しました。この測定器は、透過型と全エネルギー型の2種類のSi検出器で生成核を識別し、タングステン・ブロックで不要なγ線を遮蔽します。アイソマー測定器は、ナノ秒領域のアイソマー測定において、世界最高の検出感度を誇っています。
 この装置を用いて、中性子数40の68Ni核の励起準位を明らかにしました(図4-2)。68Niの第一励起準位はエネルギーが高く、さらに励起エネルギーが高くなるにつれて準位間隔が狭まっていきます。これは中性子数40が閉殻であることを示しています。すなわち、68Niは中性子数40も魔法数を持つ二重閉殻になっています。しかし一方、この準位図は陽子数28の閉殻が少し弱まっている可能性も示唆しており、原子核構造の深淵をのぞかせています。



参考文献
T. Ishii et al., Core-Excited States in the Doubly-Magic 68Ni and Its Neighbor 69Cu, Phys. Rev. Lett., 84, 39 (2000).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2002
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