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電子の第3の自由度「軌道」が整列すると?
―超巨大磁気抵抗現象の舞台裏に潜むもの―




図4-6 ルテニウム酸化物に対する基底状態の相図と理論的に予言された軌道秩序パターン

(a)は理論模型を厳密対角化法によって解析して得られた相図です。縦軸が電子間クーロン相互作用、横軸が電子格子相互作用を表します。強磁性・反強磁性状態が、軌道秩序・無秩序状態と様々に絡み合って複雑な相図を形成しています。(b)はルテニウム酸化物の反強磁性相における軌道秩序の様子を模式的に示したものです。緑がxy、青がyz、赤がzxの軌道を表しています。




 物質に磁場をかけると、ローレンツ力によって電子の軌道が曲げられるので電子は流れにくくなり、一般に、電気抵抗は大きくなりますが、磁場の印加によって抵抗が減少する「負の磁気抵抗現象」が生じることがあります。とりわけ、マンガン酸化物においては、数テスラという僅かな磁場によって抵抗が何桁にもわたって急激に減少する負の超巨大磁気抵抗現象が見られ、高密度磁気記録装置ヘッドなどへの応用が期待されています。
 この超巨大磁気抵抗現象を巡っては、数多くの研究がなされてきましたが、電子の持つ3つの自由度、すなわち、電荷、スピン、軌道の自由度の制御が重要であることが明らかになってきました。とくに注目されたのが、軌道秩序、すなわち、電子が異なる軌道を占有しながら空間的に局在する現象です。軌道秩序はこれまで、2つの軌道を持つマンガン酸化物において盛んに研究されてきましたが、最近、3つの軌道(xy、yz、zx)を有するルテニウム酸化物においても、軌道秩序の可能性が理論的に予言されています。図4-6(a)における反強磁性軌道秩序相(黄色の領域)がそれにあたり、このときの軌道秩序は、(b)に示すように、3つの軌道によって構成される美しい幾何学的模様となります。
 このような軌道秩序は、超巨大磁気抵抗物質において、なぜ負の磁気抵抗が超巨大になるのか、という素朴な質問に答えてくれます。たとえば上図(a)において、絶縁体である反強磁性軌道秩序相と金属である強磁性軌道無秩序相が隣接していますが、この境界領域においては、僅かな磁場で反強磁性から強磁性への転移が起き、それに伴って絶縁体金属転移が生じることになります。これが究極の超巨大磁気抵抗現象であり、それを影で支えているのが軌道秩序であると言うことができます。



参考文献
T. Hotta and E. Dagotto, Prediction of Orbital Ordering in Single-Layered Ruthenates, Phys. Rev. Lett., 88, 017201 (2002).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2002
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