4-4

核磁気共鳴(NMR)でウラン電子軌道秩序が見えた




図4-7 UGa369Ga−NMRスペクトル

常磁性状態では一本だったNMR共鳴線が反強磁性状態では内部磁場により位置がずれ、しかも4本に分裂しています。



図4-8 UGa3の結晶構造

立方対称性を持っています。U位置(赤丸)での反強磁性秩序モーメントの方向(11δ)を立体矢印で示しています。磁場方向(100)は矢印で示しています。


 ウラン金属間化合物の磁性や電子物性はウラン原子の5f電子が司っています。この5f電子の特徴として、電子の持つ軌道自由度が残っていることが挙げられます。3d電子では通常この軌道自由度はなくなってしまっています。この軌道自由度はスピン−軌道相互作用を通じてスピン自由度と独立ではなくなっています。5f電子系ではこの軌道自由度に起因する新しい電子物性や秩序状態が見つかり注目を集めています。
 核磁気共鳴(NMR)法は物質の磁性や電子物性を微視的にみる数少ない測定手段です。静的および動的磁性の両方を見ることができるので磁性の研究にはとくに有効です。ここでは5f電子の電子相関により重い電子状態が現れているUGa3という化合物において反強磁性秩序に伴う軌道秩序を核磁気共鳴で初めて観測しました。まず常磁性状態で(100)方向に外部磁場をかけた時のGa−NMRスペクトル(m=1/2⇔3/2遷移)を示します(図4-7)。鋭い1本の共鳴線しか観測されないことがわかります。これはGa位置での磁場=(外部磁場+内部磁場)が均一であることを示しています。この化合物は67K以下で反強磁性秩序状態になります。この反強磁性状態はQ=(1/2、1/2、1/2)という伝播ヴェクトルを持つタイプII反強磁性状態であることが中性子散乱の結果からわかっています。この秩序状態で同様のNMRスペクトルを取って見ると4本に分裂していることがわかります(図4-7)。これは反強磁性状態でU位置に生じた秩序モーメントに起因して4種類の異なった内部磁場がGa位置に生じていることに対応します。ここで興味深いのは、図4-8で示したようなUGa3の立方晶構造にタイプII反強磁性状態が生じるとGa位置に現れる内部磁場は相殺されてなくなるはずなのです。ここで内部磁場が生じていることは何らかの原因で相殺条件が破れてしまっていることを示します。Ga位置の内部磁場はU位置とGa位置の間の超微細相互作用定数に比例しています。反強磁性状態では秩序モーメントが上を向いたU位置と下を向いたU位置があるので、スピン‐軌道相互作用を通じて軌道にも秩序が生じると上向きのU位置と下向きのU位置ではGa位置との超微細相互作用定数が異なるようになります。このためGa位置で内部磁場が相殺されなくなるのです。これは5f電子の軌道秩序を、超微細相互作用の対称性の低下から観測した初めての例です。また共鳴線が4つに分裂することから、秩序モーメントの向きは(1,1,δ)方向を向いていることが対称性の考察から結論できます(1>δ>0)。この方向は中性子散乱では決められなかったので、NMRで初めて決定したことになります。
  このようにNMRを用いてウラン化合物の5f電子に起因する色々な新しい性質が明らかになってきています。



参考文献
S. Kambe et al., NMR Study of the Ordered State in UGa3, Phys. B, 312-313, 902 (2002).

ご覧になりたいトピックは左側の目次よりお選びください。

たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2002
Copyright(c) 日本原子力研究所