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中性子散乱法で見る磁性体中におけるホールの挙動
―高温超伝導体における電気伝導のメカニズムに迫る―




図4-9 中性子散乱強度の温度変化

中性子散乱法により磁気配列に関する情報が得られます。上段が反強磁性配列、下段が長周期磁気構造に由来するシグナルです。La2-xSrxCuO4の表式でxがホール濃度に対応します。
図4-10 銅-酸素2次元面における磁気配列と電気伝導の温度変化の模式図

低温(30 K付近)でホール相分離が起こり、反強磁性相中に長周期構造を伴った新たな磁気相が出現します。赤い矢印は銅の磁気モーメントの配列を、背景の色はホール濃度の濃淡に対応します。




 十数年前に発見された高温超伝導体は、超伝導発現のメカニズムを明らかにするために現在でも精力的な研究がなされています。全ての高温超伝導体に共通する基本構造は銅と酸素で形作られる2次元ネットワークですが、この2次元面では銅が持つ磁気モーメントが整列しています。この2次元面にホール(空孔)を注入していくと、ホールが動き回り、やがて超伝導を示すようになります。これまでの研究から、超伝導発現にはこの磁気モーメントどうしの相互作用が注入されたホールに作用を及ぼすことが重要であると言われています。
 中性子散乱法は、中性子が持つ磁気モーメントと磁性体が持つ磁気モーメントの間に働く力を利用して、磁気モーメントの配列に関する情報を得ることができる重要な測定手段です。私たちは高温超伝導体の磁気的性質を調べるために中性子散乱法を用いていますが、とくにホールの動きと磁気モーメントの配列状態がどう関わっているかという興味ある問題を調べています。単結晶を用いて中性子散乱実験を行ったところ、図4-9に示すように、試料温度が高く電気伝導が良い場合には磁気モーメントがお互い反平行に並んでいること(反強磁性配列)がわかりました。試料温度を低くしていくと、ホールの動きが鈍くなっていきます。この研究により、低温でホールは均等に存在するのではなく、ホール濃度の大きい部分(濃度〜2%)と小さい部分(濃度〜0%)に相分離するという新しい結果を得ました。ホールのない部分では高温と同じ磁気配列をしていますが、濃い部分ではホールが長周期構造(銅原子間の周期と比べて約25倍長い)を持って整列しており、それに従って、磁気整列も長周期構造を伴っています(図4-10)。
 このようにホールが相分離するという振る舞いは理論的にも議論されています。磁性体に少量のホールを注入する際、長距離クーロン斥力が十分弱い場合には低ホール濃度領域と高ホール濃度領域に相分離することが予想されています。ホールどうしが近づくとクーロン斥力のために電気エネルギーは損をしますが、磁気配列状態を乱す領域が減るために磁気エネルギーは得をします。結果的には両者の力のバランスから相分離の有無が決定しますが、今回初めて実験的にこの相分離の存在を証明することに成功しました。



参考文献
M. Matsuda et al., Electronic Phase Separation in Lightly Doped La2-xSrxCuO4, Phys. Rev. B, 65, 134515 (2002).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2002
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