4-7 |
中性子回折により明らかにされた蛋白質の水和水の運動 |
![]() |
||
|
![]() |
||
|
生体内では蛋白質は水和していて、水分子が蛋白質の働きに深く関っていることが知られています。しかし、X線構造解析では水素原子位置の決定が難しく、蛋白質の水和構造は部分的にしか解っていませんでした。今回、私たちは3種類の蛋白質(ミオグロビン、ルブレドキシン、ルブレドキシン変異体)について1.5〜1.6Å分解能の中性子結晶解析を行い、水分子中の水素原子位置を決定して、水和構造の詳細を明らかにすることに成功しました。 水分子は、中性子散乱核密度分布(原子の存在位置を示します)図上で様々な形をとっています(図4-13)。その形状は、大別して三角形型、短い棒型、長い棒型と球型の4種類に分けられます。三角形型(図4-13(a))では、酸素原子(O)と2つの重水素原子(D)の全てが明確に観測できます。これに対して、短い棒型(図4-13(b))は重水素のピークが1原子欠損しています。見えない重水素原子はO-D軸の周りの回転により乱れていると考えられます。また、長い棒型(図4-13(c))では酸素原子の位置が不明瞭で、この場合には酸素原子位置がD-D軸の周りの分子回転等により乱れてしまっていると考えられます。球型では(図4-13(d))、水分子は完全に方向性を失ってしまい、このために輪郭が球状になっていると考えられます。 水分子がこれらの形状をとる理由を考察する上で、温度因子に注目しました。温度因子は原子の熱振動による原子の平均変位から導かれる値です。X線回折と中性子回折の両方で得られた温度因子と、形状との間に強い正の相関を見て取ることができます(図4-14)。このことから、今回観測された水分子の形状が、水分子の結晶内での運動(ダイナミクス)に基づいていると結論することができます。 今回明らかになった水分子のダイナミクスは、コンピューターシミュレーションやNMRでの溶液解析の研究に対する有益な情報となることが期待されます。 |
●参考文献 T. Chatake et al., Hydration in Proteins Observed by High-Resolution Neutron Crystallography, Proteins, 50(3), 516 (2003). |
ご覧になりたいトピックは左側の目次よりお選びください。 | ![]() |
たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2002 Copyright(c) 日本原子力研究所 |