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生体物質の大型単結晶育成技術
―世界最大級のDNA単結晶を作製―




図4-15 DNA十量体d(CCATTAATGG)の結晶化相図

2-メチル-2,4-ペンタンジオール(MPD)濃度30%で、DNA濃度、MgCl2濃度を変化させて作成しました。挿入図の結晶は、DNA 1.5 mM, MPD 30%v/v MgCl2 100 mMの条件で、1〜2ヶ月間6℃の育成により得ることができました。この結晶はこれまでに公式発表されたDNA結晶としては世界最大級です。



図4-16 インスリンの大型単結晶

結晶化相図から判明した最適結晶化条件(20 mg/ml, Na2HPO4 0.2 M)によって得ることができました。



 生体物質の機能は水素原子や生体物質を取り巻く水分子と密接に関係しているため、水素原子位置を厳密に決定することは極めて重要です。X線結晶回折法では水素原子を見ることが困難であるのに対し、中性子結晶回折法では水素原子位置を詳細に決定することができます。しかし、中性子結晶回折では大きな結晶(1 mm3以上)を必要とします。
  私たちは、溶解度曲線を含む結晶化相図を作成することにより、生体高分子の大型単結晶育成に成功しました。結晶化相図を描くことで、(1)大型単結晶育成の最適条件の選定が容易化され、また、(2)結晶育成に適した結晶化法の選定が容易化されます。さらに(3)実験の再現性が向上します。しかし、これまでに厳密な結晶化相図が報告されている生体物質は限られており、結晶化相図が大型単結晶育成のために利用された例は極めて少ないのが現状です。
 図4-15は、添加剤アルコール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール(MPD)30%存在下において、B型DNA d(CCATTAATGG)の濃度と結晶化剤であるMgCl2濃度を変化させて描いた結晶化相図です。DNA溶解度極小付近が最適結晶化条件であることが判明し、世界最大級の単結晶(2.0×2.0×0.3 mm)の育成に成功しました。
  同様に、インスリンの結晶化相図を作成することによって、4.0×4.0×1.3 mmの大型単結晶育成に成功しています(図4-16)。
 現在、これらの大型単結晶を用いて中性子回折実験を計画しております。これらの技術はX線結晶解析において高分解能構造決定を実現できる良質結晶育成にも応用可能です。



参考文献
S. Arai et al, Crystallization of a Large Single Crystal of a B-DNA Decamer for a Neutron Diffraction Experiment by the Phase Diagram Technique, Acta Crystallogr. Sect. D, 58, 151 (2002).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2002
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