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鉛・ビスマスの流れの中で材料が腐食する




図5-3 鉛・ビスマス中で腐食させた試験管
 
鉛・ビスマスは、試験管の内部を毎秒1 mで3,000時間流動しました。上図は試験後の写真で、長さは30 cm。下図は管断面の顕微鏡写真で、ステンレス鋼(SS316)が腐食して、凹凸になっていました。最大深さが約100 μmに達した箇所もありました。内面には、鉛・ビスマスが固着しています。



図5-4 析出物の走査型電子顕微鏡写真
 
低温側の配管流路には、付着した鉛・ビスマス中にCr-Feの析出物が多数見られました。




 原子力発電の結果生み出される長い半減期の放射性核種を、短い半減期の核種にする技術を実験するため、加速器と未臨界炉を一体化した核変換装置が設計されています。高エネルギーの陽子をターゲットと呼ぶ原子核に衝突させ、核を破砕します。そのとき、生み出される多量の中性子を用いて核変換に使います。中性子源には核的特性から、液体化した鉛・ビスマスが第1候補として選択されました。従来の原子炉構造と全く異なる点は、加速器と未臨界炉のインターフェースとして核破砕ターゲットがある点です。
 核破砕ターゲットで使用する材料は、流動する鉛・ビスマスに接しながら、同時に陽子と核破砕反応の結果生じる中性子による照射を高温で受けます。このような極限環境で受ける材料の耐久性データは見あたりません。そこで、影響を分離して評価することとし、流動する鉛・ビスマス中における材料の耐久性を調べるため、鉛・ビスマスの高温循環ループ中で、3,000時間の材料試験を行い、耐久性を評価しました。
 材料の耐食性は、通常、表面に形成される酸化被膜により向上します。境界材料候補材であるオーステナイトステンレス鋼(SS316)の場合、設計温度である450℃の鉛・ビスマスの中に浸潤させると、表面には数μmの酸化膜が形成され、質量の欠損もなく、安定でした。ところが、鉛・ビスマスを流動させると、材料は浸食されました。このことは、酸化皮膜は、流動条件下では安定的に形成維持されないことを意味します。詳細な分析の結果、浸食の深さは最大100 μmであること、鉛・ビスマスは材料に付着して残ること(図5-3)、400℃に冷却した流路にCr-Feが析出することがわかりました(図5-4)。浸食量は、腐食速度として設計寿命に反映されます。低温側流路全体に見られるCr-Feの析出機構を考察した結果、高温に加熱された部材から材料の主要構成元素が鉛・ビスマス中に溶出し、それらが循環ループ内の温度差で決まる溶解飽和濃度の差により低温側で析出したとする結論を得ました。これは、実際の核変換プラントにおいて蒸気発生器や熱交換器を取りつける場合、伝熱管にCr-Feが析出し、狭い流路が閉塞する可能性があることを示しており、核変換装置の設計では充分な隙間を確保する必要があることがわかりました。



参考文献
K. Kikuchi e al., Current Status of JAERI Spallation Target Material Program, J. Nucl. Mater., 296, 3 (2001).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2002
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