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固体酸化物中の酸素空孔の数を探る




図6-3 蛍石型2酸化物MO2(M=Ce,U,Th,Zr,Hf)の構造

蛍石型2酸化物の金属Mは8個の酸素でつくられた立方体の中心に位置します。4価金属MをEuなどの3価金属Euによって置換していくと、酸素空孔が生成します。酸素空孔を含むこのような欠陥蛍石型相では、酸素空孔は無秩序(ランダム)に生成し、Euおよび4価金属(M)イオンの周りの酸素の配位数(CN)は8から6へと減少していくと考えられます。



図6-4 Euを固溶させた蛍石型酸化物EuyM1−yO2−x(M=Ce,U,Th,Zr,Hf)におけるEu3価イオンの異性体シフト

Eu3+の異性体シフトは、ホスト(4価)金属Mの違いによって、異なるEu組成(y)依存性を示します。
Ce,Th系()では、組成yの増加に従って異性体シフトは増加します。M4+をEu3+に置換するに伴って、酸素空孔が生成し(EuyM1−yO2−y/2)、Eu3+イオンまわりの酸素配位数が、8(y=0)から6(y=1)へと減少します。
Zr,Hf系(△、▲)では、異性体シフトは組成y=0.5で極小となります。これは、この組成で、秩序化したパイロクロア相が生成し、酸素空孔は4価Zr,Hfイオンのまわりに配位し、Eu3+イオンまわりの酸素配位数は8だからです。
U系()では、y < 0.5でEu3+イオンのまわりの酸素配位数は、ほぼ8で変わらず、異性体シフトも変化しません。



 メスバウア分光法−γ線の無反跳核共鳴吸収法−は、共鳴吸収γ線のエネルギー変化から、原子(核)のまわりの局所状態を調べる有力な手段です。
 本研究では、Eu3+によって置換した一連の蛍石型(図6-3)酸化物系(固溶体)EuyM1−yO2−x(M=U, Th, Ce, Zr, Hf)について151Euメスバウア分光法を適用し、Eu3+組成(y)を変化させ、これらの物質中でのEu3+の周囲の局所構造を調べました。
 Eu3+等の3価ランタナイド(Ln3+)により4価金属(M4+)を置換した酸化物LnyM1−yO2−xは、酸素空孔によるイオン伝導性を示し、(M=Ce, Zr, Hf, Th)などは酸素センサー、燃料電池などに利用されます。また、主な核分裂生成物であるLnにより置換された核燃料(M=U, Th)の物性は、酸化物核燃料の照射挙動解明に重要です。
 Eu3+の異性体シフト(メスバウアスペクトルのピーク位置)が、このEu3+まわりの酸素配位数や酸素との結合距離に依存して大きく変化することを明らかにしました。
 図6-4の異性体シフトのEu組成(y)に対する変化は、各系の局所構造の違いを示しています。Th、Ce系では酸素欠損型の蛍石型固溶体EuyM1−yO2−x(x=y/2)が生成しており、酸素配位数が8から6へと単調に減少していくことがわかります。
 これに対して、Zr、Hf系では、y=0.5のとき異性体シフトが極小値をとり、Euの酸素配位数が8(Zr、Hfの酸素配位数が6)の秩序化したパイロクロア構造をとります。X線回折から見かけ上、蛍石型構造とみなせる0.2 < y < 0.45においても、Th、Ce系とは逆の組成依存性を示します。これから、この領域でもパイロクロア構造型の局所構造を持っていることがわかりました。U系の0 < y < 0.5においては、Eu3+に置換すると、Uの一部が4価から5価へ酸化され、つねに酸素定比組成の蛍石型相(Eu3+yU5+yU4+1−2yO2−2)が生成し、酸素空孔が存在しないため、酸素配位数が8で変化しないことがわかります。



参考文献
N.M. Masaki et al., 151Eu Mössbauer Spectroscopic and XRD Study on Some Fluorite Solid Solution Systems, EuyM1−yO2−y/2 (M=Zr, Hf, Ce), Hyperfine Interactions, Proc. of International Conference on the Applications of the Mössbauer Effect 2001 (ICAME 2001), Sep. 2-7, 2001, Oxford, England, (2002).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2002
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