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進行波励起により軟X線の高効率増幅に成功




図8-1 進行波励起光生成の概念図

波面の揃った超短パルスレーザー光は、階段ミラーによって分割され、最適な時間遅れを持ちながら、ターゲット上へ到達します。



図8-2 進行波励起の効果

プラズマの長さ(増幅媒質の長さ)に対して、軟X線レーザー光の強度をプロットしたものです。は進行波励起を用いたもので、進行波励起を用いなかった場合()に比べて、増幅効率が上がっていることがわかります。進行波励起を用いることによりプラズマ長さ0.43 cm以上で飽和強度に到達しました。




 私たちは、これまでに発振が確認されていたニッケル様錫イオン軟X線レーザー(波長12 nm、nmは10−9 m)を、さらに効率良く増幅させる工夫を行いました。通常、軟X線レーザーでは5〜6 mm程度の長さの高温高密度の多価イオンプラズマを増幅媒質として用います。このプラズマは、数ps(psは10−12 秒)の時間幅の励起レーザー光を固体ターゲットにパルス照射することによって作り出されますが、プラズマの温度が下がると増幅効果が無くなってしまいます。ニッケル様錫イオンを増幅媒質とする場合、増幅効果の寿命は5 ps程度であり、これは光の伝播距離にして1.5 mmの長さにしかなりません。したがって増幅媒質の一方の端から他方の端へ光が伝搬しながら増幅していく間に増幅効果が無くなり、結果として強い増幅を得ることができなくなります。
 我々はその解決方法として、励起レーザー光の集光光学系の中に階段状のミラーを導入することで、励起レーザー光の波面をずらすことにしました(図8-1)。このような励起方法を進行波励起と呼びます。階段状のミラーは、縦150 mm、横150 mmのベースプレートに横幅25 mmの6個の多層膜ミラーを圧着したもので、この実験用に特別に製作したものです。階段状のミラーにより分割された励起レーザー光は、ある時間遅れを持ちながらターゲット上に到達することになります。階段状ミラーのステップの大きさを最適化することにより、この時間遅れを調整し、媒質中を増幅しながら伝播していく軟X線が常に最適の条件で増幅されることが可能となります。図8-2に進行波励起を用いた場合と同時照射した場合とのニッケル様錫レーザーの増幅曲線を示します。進行波励起により利得係数は14 cm−1から30 cm−1に改善され、媒質長4.3 mm以降で飽和強度に到達したことを確認しました。飽和増幅時の1パルス当たりのエネルギーは約15μmJ、出力強度は4×1010 W/cm2であり、現段階の実験室サイズの軟X線レーザーとしては最も高効率となりました。



参考文献
T. Kawachi et al., X-ray Laser Research at JAERI, IEEE/LEOS Annual Conference Proceedings 2001,457 (2001).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2002
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