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小型、高エネルギー加速器をめざして
―周波数干渉測定によるガスジェット中の航跡場測定―




図8-5 周波数干渉計測の概念図

時間差のある2つのレーザーパルスは周波数領域での干渉を起こし、プラズマ中の電子密度によって、この干渉縞は変化します。ポンプパルスによってプラズマ中に航跡場を生成し、2つのプローブパルスをプラズマと相互作用させ、相互作用したプローブパルスをスペクトロメーター中で干渉させ、干渉縞の変化を観測することで、プラズマ中の航跡場を測定します。


図8-6 周波数干渉計測によって測定されたプラズマ中の航跡場

ガスジェット中の航跡場の測定は世界で初めてであり、これにより、最大20GeV/mの電場が測定されました。



図8-7 実験結果、シミュレーション結果、線形理論との比較

黒はプラズマ航跡場、赤はプラズマ波長を示し、線は線形理論、△はシミュレーション結果、×は実験結果を示します。それぞれ、非常によく一致しました。



 高強度レーザーをガス中に集光すると、レーザーの動重力により電子振動が起こります。これは非常に強い電場(航跡場)をもっており、これにより荷電粒子を高エネルギーに加速することができます。これを加速器に応用することができれば、現在の高周波加速器に比べコンパクトで高エネルギーの加速器を作ることが可能となります。この航跡場をコントロールし、加速器へ応用するためには、この電界の大きさや位相の測定ができなければなりません。さらに、高強度レーザーの伝播には、レーザーラインを真空にする必要があります。プラズマ源として、真空度を悪くすることがほとんどなく真空中にガスを入れなければならないため、ガスはガスジェットによってレーザーの集光される一瞬にのみ入れる必要があります。そこで、ガスジェットによるガスの密度分布およびレーザーによるプラズマ中の航跡場の測定を行いました。
 まず、ガスジェットの密度分布の時間変化を測定し、リザーバ圧10気圧のヘリウムの場合、ガスジェットノズルからの距離が1.5 mmの位置でのガス密度は、3.5×1017(完全電離でのプラズマ密度:7×1017)cm−3になることを確認しました。周波数干渉計を用いて、ノズルからの位置を1.5mm、ガスジェットの背圧10気圧のときの、ガスジェット中に集光したレーザーによるプラズマ振動の測定を行い、ここから電界を求めました。図8-5に、周波数干渉計測の概念図を示します。このようにして計測された航跡場を図8-6に示します。この測定により、最大20 GeV/m以上の高電界の発生を確認しました。また、プラズマ振動の周期より、プラズマ密度が7×1017 cm−3であることが分かります。実験結果と、シミュレーションおよび線型理論との比較を図8-7に示します。図のように、それぞれが非常によく一致しました。
  ガスジェットを用いての航跡場測定は世界で初めてのことであり、これに成功したことによって、レーザーを用いた粒子加速の研究の進展が期待されます。



参考文献
H. Kotaki et al., Direct Measurement of Coherent Ultrahigh Wakefields Excited by Intense Ultrashort Laser Pulses in a Gas-Jet Plasma, Phys. Plasmas, 9, 1392 (2002).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2002
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