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ダイヤモンド生成プロセスを探る
―高温高圧下における反応をリアルタイム観測する―




図8-8 高温高圧下その場X線回折実験

試料は立方体形状の高圧発生セル中に仕込まれ、大型プレスによって6方向から加圧されます。入射スリットにより絞られた白色放射光が、高圧セル中の試料に当たり、回折されたX線プロファイルが検出器によって測定されます。



図8-9 黒鉛からダイヤモンドへの変換過程におけるX線回折プロファイルの時間変化

黒鉛試料に、1450℃8.8万気圧の高温高圧をかけて、10秒毎にそのX線回折プロファイルを観測したものです。時間経過とともに、Grで示されている黒鉛ピークが減少していき、代わってDiaで示されているダイヤモンドピークが増大していく様子がとらえられています。この実験では、水がダイヤモンド変換を助ける触媒として用いられています。



 黒鉛に高温高圧をかけるとダイヤモンドに変換することは、よく知られています。天然ダイヤモンドは、地球内部の高温高圧下で成長したものですが、現在では、研磨・切削などの産業需要にこたえるべく、大量のダイヤモンドが高温高圧合成法によって人工的に生産されています。しかしながら、大型プレスを用いるこの手法においては、反応は常に頑丈な高圧容器内で進行するため、ダイヤモンドへの変換プロセスをリアルタイムで観測することは、これまで非常に困難でした。
 強力なX線光源である高輝度放射光を用いることにより、このような高圧容器内での反応を直接観測することができるようになってきました(図8-8)。今回私たちは、SPring-8原研ビームラインに設置されている大型高温高圧発生装置を用いて、黒鉛がダイヤモンドに変換する様子を、時分割X線回折の手段により、その場観察することに初めて成功しました。時間とともに黒鉛のピーク強度が減少し、代わってダイヤモンドのピークが強くなっていく様子が明瞭に捉えられています(図8-9)。種々の温度圧力で得られたこのようなデータを解析することで、この相転移のメカニズム(核形成、結晶成長など)に関する反応速度論的な議論が可能になります。
 この研究は、工業的ダイヤモンド合成における重要な情報となるほか、地球内部における天然ダイヤモンドの成因の究明に関しても大きな手がかりを与えるものであると期待されています。



参考文献
T. Okada et al., In situ X-ray Observations of the Decomposition of Brucite and Graphite-diamond Conversion in Aqueous Fluid at High Pressure and Temperature, Phys. Chem. Miner., 29(7), 439 (2002).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2002
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