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X線定在波現象を利用して多層膜X線ミラーの
層構造分布を非破壊で可視化




図8-13 4インチサイズのMo/Si多層膜X線ミラー(左図)において、5ヶ所の測定点(A、Bx、By、Cx、Cy)で測定した全電子収量X線定在波スペクトル(右図)

測定点での層構造(周期長)に違いがあると、全電子収量X線定在波スペクトルのピーク位置がシフトします。試料中心のA点では97.68 eVにピークが現れますが、それ以外の測定点では高エネルギー側にシフトします。



図8-14 Mo/Si多層膜X線ミラーにおいて、中心部(A点)のX線定在波ピークに放射光のエネルギーを固定し、試料面内で走査測定して得られた全電子収量分布図

走査範囲は4インチサイズ多層膜X線ミラーの1/4の領域です。中心部から周辺部にかけて全電子収量強度がゆるやかに変化し、層構造の周期長が序々に短くなる様子がわかります。なお、全電子収量の等高線を上面に示します。




 多層膜X線ミラーは高輝度なシンクロトロン放射光(以下、「放射光」と略します)やX線レーザ光の光学素子として利用されます。この多層膜X線ミラーは通常、直径が数インチの基板の上に、ナノメートルレベル(1ナノメートルは1ミリの百万分の1)の非常に薄い2種類の膜を交互に積み重ねてつくられます。多層膜X線ミラーの品質評価には、積み重ねた膜の厚さ(層構造)が基板面内で均一になっていることを確認することが重要ですが、電子顕微鏡などを使った従来の評価方法では多層膜試料を切断する必要があり、かつ迅速な評価がいささか難しいという問題がありました。
 この問題を解決するため、私たちはX線定在波現象を利用した簡便な非破壊評価方法を提案しました。この方法では、単色化した放射光を多層膜X線ミラー試料に照射し、ここで生じる電流(全電子収量)を測定します。放射光のエネルギーが膜の厚さで決まる特定の値になるとX線定在波現象が起き、電流値が変化します(図8-13)。したがって、X線定在波現象が起きる特定の値に放射光のエネルギーを固定して、X線多層膜ミラー試料を水平方向と垂直方向に動かしながら照射位置と電流値の関係を求めれば、試料面内での層構造に関する情報を非破壊でとりだすことができます。すなわち、試料面をxy平面として電流値をz軸にとり作図すれば、試料面内での層構造の分布状況を三次元的に可視化表示することができます(図8-14)。この直径4インチのMo/Si多層膜X線ミラーを用いた実験から、1時間以内で測定できることがわかり、従来手法に比べて格段に速くかつ簡便に層構造分布を評価できることが示されました。今後、この評価方法が多層膜X線ミラーの開発プロセスに利用されることが期待されます。



参考文献
Y. Muramatsu et al., Total-Electron-Yield X-Ray Standing-Wave Measurements of Multilayer X-Ray Mirrors for Interface Structure Evaluation, Jpn. J. Appl. Phys., 41, 4250 (2002).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2002
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