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根はどのように重力を感じているのか?




図9-13 根の先端部分(左)と重マイクロイオンビーム照射位置(右)の概略図



図9-14 重マイクロイオンビーム照射後、根を横に向けて重力による屈性の観察

先端部分aの照射では、根の伸張も屈曲も見られません。照射後重力下方となる部分bへの照射では、根の屈曲が完全に阻害されますが、上方部分dへの照射では、屈性が見られます。




 植物の根は重力を感じて下方に曲がります。とてもシンプルで特徴的な植物の現象ですが、実はまだわかっていないことが多いのです。
 モデル植物であるシロイヌナズナを用いた多くの研究などから、根はその先端部分(Columella根冠)で重力を感知し、先端より基部の部分である伸長帯の部分の細胞が伸張することによって屈曲することがわかっています。しかし、先端部分で受けたシグナルをどのようにして伸長帯に伝えているのかはわかっていませんでした。
 そこで、私たちは原研高崎研究所で初めて開発した重イオンマイクロビームを用いてシロイヌナズナの根に照射し、その影響を調べました。
 下方向きに育てた根に直径120μmのマイクロビームを図9-13のようにa〜fの部位に照射して細胞を不活性化させ、その後に横向きに育てますと、照射部位によって根の重力屈性が異なりました(図9-14)。
  非照射の根では、充分な伸長と屈曲が見られたのに対して、重力を感知する部分であるaへの照射を行うと、根は伸張も屈曲もしませんでした。非常に興味深いのは、照射後に重力上方となる細胞dへの照射では比較的屈性が見られたのに対して、重力下方となる細胞bへの照射では、屈性が全く見られなくなってしまいました。
 この結果から、根の先端で重力を感知した後、そのシグナルは重力下方となる部分を伝達して実際に屈曲する部分に伝わることがわかりました。



参考文献
A. Tanaka et al., Positional Effect of Cell Inactivation on Root Gravitropism Using Heavy-Ion Microbeams, J. Exp. Botany, 53, 683 (2002).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2002
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