9-7

医療に役立つ超ミニカプセルの合成
―RIイオンをフラーレンに打ち込む―




図9-15 ISOLを用いた133Xeイオン注入の概念図

試料ボンベには、あらかじめ放射性133Xeガスおよび質量の指標に用いるための安定同位元素である129Xeガスを入れておきます。これらのガスをボンベからイオン源に導きイオン化させ、約40 kVで加速させた後、質量分析マグネットで133Xeイオンビームだけをフラーレンに照射します。



図9-16 イオン注入法による133Xe内包フラーレンの生成過程

加速された133Xeがフラーレンに近づき、フラーレンの炭素の六員環を押し広げて侵入します。最後は、133Xe原子がフラーレンの中心にある場合を描きました。



図9-17 C60フラーレンと133Xeの溶離曲線

133Xeイオン注入後のC60フラーレンをオルト−ジクロロベンゼンに溶解し、ナカライテスク社製のHPLC分析カラムCOSMOCIL 5PYEに導入して、オルト−ジクロロベンゼンを用い流速1 mL/分で溶離しました。UV測定によるフラーレンのピークと放射能測定による133Xeのピークが一致したことから133Xe内包フラーレンが生成したと結論づけました。




 フラーレンには、サッカーボール型のC60、ラグビーボール型のC70、さらにC82やC84等の高次フラーレンがあります。これら全てのフラーレンは、内部が空洞になっており、任意の原子を1個から3個まで取り込むことができます。この化合物は、原子内包フラーレンと呼ばれており、とくに内包する原子が放射性同位元素(RI)の場合には、RI内包フラーレンと呼ばれます。
 RI内包フラーレンは、診断・治療への医学応用が期待されています。これは、癌等への親和性を持ったフラーレン誘導体を作り、目的に応じてβ線、γ線等を放出するRIを内包させれば、診断・治療が可能と考えられるためです。
 我々は、オンライン同位体分離器(Isotope Separator On-Line:ISOL)を用いて、Ni基板上に蒸着したC60またはC70フラーレンにキセノン-133(133Xe)をイオン注入し(図9-15および図9-16)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析しました。紫外吸収分光法(UV)で測定したフラーレンのピークと、放射能で測定した133Xeのピークが一致したことから(図9-17)、133Xe内包フラーレンが生成したと結論づけました。この結果、我々は世界で初めてイオン注入法によるRI内包フラーレンの生成に成功しました。
 今後、133Xeだけでなく、核医学で現在診断・治療に用いられているRI等、様々なRIイオンを用いてRI内包フラーレンを作製する予定です。また、そのままでは疎水性で生体親和性を持たないRI内包フラーレンに生体親和性基を導入して、動物実験により生体内挙動を調べることにより、RI内包フラーレンの医学応用の可能性を明らかにする計画です。



参考文献
S. Watanabe et al., Production of Endohedral 133Xe-Fullerene by Ion Implantation, J. Radioanal. Nucl. Chem., 255(3), 495, (2003).

ご覧になりたいトピックは左側の目次よりお選びください。

たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2002
Copyright(c) 日本原子力研究所