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不均一磁性体相転移の大規模シミュレーション




図10-1 ランダム磁場イジングモデルの状態図

このモデルはパラメータによって液体のように乱雑に変化しつづける状態とガラスのように乱雑なまま固まった状態の間の中間的な状態になる興味深い性質を示します。また固体的状態への転移は常に絶対零度でのガラス・固体転移に帰着されます。




 通常物質は温度が高いと液体のように乱れていて軟らかく、温度が低いと結晶のように整っていて硬くなります。しかし「整っていて軟らかい」液晶のような物質や、「乱れていて硬い」ガラスのような物質もあり、それらの性質は現代の物理学において重要なテーマとなっています。ガラスの場合、原子配列のスナップショットを見ると液体と同じで乱れた配列になっていますが、乱れたまま固まって動かないところが液体との大きな違いです。近年磁性体でもこのような現象が発見され「スピングラス」とよばれ盛んに研究されています。通常磁性体では高温で各電子スピンがバラバラな方向を向いて乱れた液体的状態になり、低温ではスピンが一方向に揃って固まり磁性を発現します。しかしスピングラスとよばれる磁性体では不純物の混入や照射による欠損などの影響で低温でも乱れた状態のまま固まってガラス的状態となり、磁性は発現しませんが様々な興味深い物理現象を示します。
 本研究ではこのような物質をモデル化した「ランダム磁場イジングモデル」について大規模なシミュレーションを行いました。その結果照射などによる乱れの強さと温度を変えた時、ガラス的状態と液体的状態の間を連続的に変化し、個体的状態への相転移がガラス的な転移に帰着されることを示しました(図10-1)。ガラス的な振る舞いを示す系の数値計算は非常に困難であることが知られていますが、本研究では「温度交換法」とよばれる手法を用いて大規模な並列計算を行うことで高速な計算に成功しました。



参考文献
M. Itakura, Phase Diagram of the Three-Dimensional Gaussian Random Field Ising Model: A Monte Carlo Renormalization Group Study, Phys. Rev. B, 64, 012415 (2001).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2002
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