高温ガス炉は950℃の熱を作ることができるため、これを水素などの化学製品生産に利用することが期待されています。高温ガス炉に接続された化学製品生産のシステムを核熱利用システムと呼びますが、原子炉を含む核熱利用システムの信頼性向上のためには、核熱利用システムの異常時に生じる急激な温度変動(熱負荷変動)を小さくして原子炉をはじめとする機器に影響が及ばないようにする必要があります。水の臨界温度(374℃)より十分低い温度域では、そのために蒸気発生器の利用が可能です。しかし、複数の核熱利用システムを接続し、カスケード的に利用する場合には、上流側核熱利用システムの熱負荷変動の低減化は高温領域で行わなければならず、蒸気発生器を利用することはできません。そこで、溶融塩等の蓄熱物質が固体から液体に変わるときに吸収する相変化潜熱を用いることを考えました(図1-16)。
この場合、溶融塩内部の熱の伝達は主として熱伝導により行われますが、温度変動を素早く低減させるには熱伝達を高くする必要があります。そこで、発泡金属等の多孔体金属中に溶融塩を含浸させ、熱伝導率の高い金属内部を伝わる熱を溶融塩に伝えることを考えました。このようにすると、溶融塩の実効熱伝導率(多孔体金属と溶融塩を合わせた見かけの熱伝導率)を数倍から約百倍に高くすることができます。その場合の融解時間を計算等により求めました。溶融塩として炭酸リチウムを用いた場合の結果の1 例を図1-17と1-18に示します。気孔率(金属以外の体積割合)が0.9の時、溶融塩の減少量を考慮した融解時間は、1/2〜1/5に減少します(図1-17)。また、この場合、フィンを用いるよりも約3 倍の伝熱促進となります(図1-18)。溶融塩の熱伝導率が低い場合には、フィンの数十倍もの伝熱促進になります。この効果は、実効熱伝導率を高めることにより、伝熱流体からの熱を溶融塩内部に素早く伝え、溶融塩表面の温度上昇を低く抑えることができるためです。この方法をフィンと組み合わせると、さらに高い効果が得られると期待されます。 |