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魔法の鏡がプラズマ計測用レーザーの高出力化の道を拓く




図2-4 レーザー増幅器と位相共役鏡を用いたレーザー光の往復増幅

レーザー増幅器はフラッシュランプとレーザー結晶で構成されます。レーザー光は、増幅器のレーザー結晶を通過する度に増幅され、位相共役鏡で反射させることによりレーザ光の歪みが補正されます。右側の写真は位相共役鏡の概観です。長さ30cmのステンレス管内に液体フロン系化合物を充填しています。管の両端にはレーザー入・出射用のガラス窓を取り付けています。



図2-5 発振中のレーザー装置

レーザー発振器で種火となるレーザー光を発生させ、1台の予備レーザー増幅器でダブルパス増幅した後、レーザー光を2分割し、それぞれを2台の高出力レーザー増幅器で往復増幅することにより高出力レーザー光を得ます。明るく光っているのはレーザー結晶を励起するフラッシュランプ(キセノンランプ) の光です。レーザー光そのものは、赤外光(波長1064nm)なので目には見えません




 プラズマの電子温度・密度を測定するレーザー散乱計測では散乱光が微弱なため、より高い精度で測定するにはより高出力のレーザー装置の開発が必要になります。
 レーザー増幅器では、フラッシュランプで励起されたレーザー結晶にレーザー光が通過するとき、その強度が増幅されます(図2-4)。一方、レーザー結晶にはフラッシュランプ光の大半が熱として伝わり、熱膨張による歪みが発生します。この結晶を透過したレーザー光は波面が著しく乱されるだけでなく、レーザー増幅効果によりその乱れが一層強められ、結晶や光学部品に損傷を与え、このことが高出力レーザー開発の問題となっていました。
 さて、レーザー光と物質との非線形相互作用を利用すると、魔法の鏡を作ることができます。普通の鏡と自分の間に歪んだガラスを入れて自分を映すと歪んで見えますが、この鏡では全く歪まずに見えます。魔法の鏡、すなわち位相共役鏡で反射した光は位相が時間を遡るように元来た道をたどり、往路で受けた歪みが復路で打ち消されます。この性質を高出力レーザー増幅器に応用すれば、熱により歪んだレーザー結晶でのレーザー光の不均一性を完全に補正できるので、レーザー装置を容易に高出力化することができます(図2-4)。
 今回開発した液体フロン系化合物を用いた位相共役鏡は、100W級(パルス出力2J,繰り返し動作50Hz)の高い平均レーザー入力においても安定に動作し95%以上の反射率を達成しました。さらに、計測精度を飛躍的に向上させるために、既存の計測用レーザー装置に位相共役鏡を組み込み出力の増強を図った結果、増幅器の台数を増やすことなく改造前の8倍の平均出力、350W(パルス出力7J,繰り返し動作50Hz)を達成することができました。このレーザー(図2-5)はフラッシュランプ方式のレーザーとしては世界最高性能であり、プラズマ計測の測定性能の向上をもたらすのみならず、加工分野など産業応用開発分野へ大きなインパクトを与えると考えられます。なお、この研究は大阪大学レーザー核融合研究センターとの協力研究により行いました。



参考文献
H. Yoshida et al., YAG Laser Performance Improved by Stimulated Brillouin Scattering Phase Conjugation Mirror in Thomson Scattering Diagnostics at JT-60, Jpn. J. Appl. Phys., 42, 439 (2003).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2003
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