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高周波で内部輸送障壁内の不純物を排出
―不純物蓄積回避手法の確立に期待―




図2-12 不純物から放出されたX線の強度分布の時間変化

高周波入射前(時刻7.5〜8.0秒)は、内部輸送障壁内の中心領域を通る測定視野チャンネルでのX線強度が大きくなっています。不純物密度が磁気面内で一定であることを考慮すると、不純物密度が中心領域で高くなっていることがわかります。高周波を入射することにより中心領域を通る測定視野チャンネルでのX線強度が大きく減少し、不純物が排出されていることを示しています。



図2-13 イオン温度、プラズマ密度、不純物(アルゴン)密度、不純物密度の減少率の分布

イオン温度の内部輸送障壁は高周波入射中でも維持されていますが、プラズマ密度の内部輸送障壁はほぼ消滅しています。X 線強度をもとに評価した不純物密度は高周波入射中に中心領域で大きく減少しています。ここでは、高周波入射前のプラズマ中心での不純物密度を1として相対値で不純物密度を示しています。高周波入射前と入射中の不純物密度の差を入射前の不純物密度で割った減少率は、内部輸送障壁内で65%程度となり、外側領域の20%に比べ大きくなっています。




 JT-60では、高周波を入射することにより内部輸送障壁(プラズマ内部に形成される断熱層)の内側に蓄積した不純物を排出できることを実証しました。
 内部輸送障壁を有するプラズマでは、そこでの熱輸送が低減することで温度勾配が大きくなり、中心領域で高い温度が得られます。そのため、ITER(国際熱核融合実験炉)の先進定常運転では、内部輸送障壁を有するプラズマが想定されています。しかしながら、核融合反応率の低下につながる内部輸送障壁内での不純物の蓄積が懸念されています。不純物密度は、密度の高い中心領域から低い周辺領域への拡散による流れと、中心領域に集まろうとする内向きの対流による流れのバランスで決定されます。拡散による流れは不純物密度の勾配に比例し、その時の比例係数を拡散係数と言います。一方、不純物はプラズマ密度の勾配に比例した内向きの対流速度を持つことが理論的に示されており、実験でも理論と矛盾しない結果が得られています。内部輸送障壁では、熱輸送と同時に粒子輸送も低減するため、プラズマ密度の勾配が大きくなります。したがって、内部輸送障壁では不純物の内向き対流速度が大きくなります。さらに、不純物輸送も低減するため拡散係数が小さくなります。その結果、中心から周辺への拡散による不純物の流れが減少し、内向きの対流による不純物の流れが大きくなるために、不純物が内部輸送障壁内に蓄積されやすくなります。ITERでは、この内部輸送障壁内での不純物蓄積を避けるために、温度には大きな勾配を残して密度分布を平坦にすることが想定されています。
 JT-60では、これまでトカマク装置やヘリカル装置で観測されている高周波入射によるプラズマ密度分布の平坦化に着目しました。あらかじめ内部輸送障壁内にアルゴンを蓄積させたプラズマに、高周波を内部輸送障壁内に入射する実験を行った結果、図2-12に示すように、アルゴンからのX線強度が中心領域で大きく減少することを観測しました。この時、図2-13に示すようにイオン温度の内部輸送障壁は残っており、中心領域での高いイオン温度は維持されています。一方、プラズマ密度の分布は平坦化し、内部輸送障壁がほぼ消滅しています。同時に中心領域のアルゴン密度が大きく減少しています。このアルゴン密度の減少は、プラズマ密度勾配の減少によるアルゴンの内向き対流速度の減少で説明可能です。この成果により、将来の定常核融合炉における不純物蓄積回避手法が確立されることが期待されます。



参考文献
H. Takenaga et al., Relationship between Particle and Heat Transport in JT-60U Plasmas with Internal Transport Barrier, in Fusion Energy 2002 (Proc. 19th Int. conf. Lyon, 2002) IAEA-CN-94-EX/C3-5Rb.

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2003
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