核融合炉で使用する高磁場・大電流コイル用超伝導線材として、Nb3Sn(ニオブ3スズ)やNb3Al(ニオブ3アルミニウム)に代表される化合物系超伝導線材があります。Nb3Sn線材は、既に実用化されていますが、大型コイルでの発生磁場は13Tが限界です。一方、Nb3Al線材は、16〜17Tの高磁場を発生することができ、先進超伝導線材として開発されてきましたが、従来は、長尺(数百m以上)のNb3Al線材を製作できず、コイル化できませんでした。
Nb(ニオブ)とAl(アルミニウム)を化合して超伝導物質にするには、従来は1800 ℃以上の高温での熱処理を必要としたため、線材中の銅が溶けてしまう問題がありました(銅の融点は1085℃)。私たちはNbとAlの薄膜(厚さ1μm 以下)を積層する構造にして、750℃という銅が溶けない温度で50時間の熱処理を行い、十分に高い超伝導性能を発揮するNb3Al超伝導線材を製造する方法(図2-19)を開発しました。
本方法を用いて、工業規模でNb3Al線材を製造することが可能となり、Nb3Al導体を用いた大型コイル(図2-20)を、世界で初めて製作することに成功しました。コイル製作では、Nb3Al線材が、図2-21に示すように、機械的歪に対する臨界電流値(超伝導状態で流せる限界の電流値)の劣化が少ないという長所を活用して、熱処理後にコイル化加工を行い、大型超伝導コイルの製作方法を簡素化できることを実証しました。
本コイルの試験では、13T、46kAの定格通電に成功するとともに、定格運転時の25%増の電磁力がかかる12.5T、60kAの通電にも成功し、Nb3Al線材が、大きな電磁力を受ける大型コイルへの応用に適していることを示しました。これにより、現在国際協力で開発を進めているITERの次の段階として検討を行っている発電実証プラントで必要とされる高磁場(16T以上)、大電流(80kA以上)化の目安を立てることができました。 |