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先進超伝導線材Nb3Al(ニオブ3アルミニウム)を用いた核融合炉用大型コイルの開発




図2-19 Nb3Al 線の製造方法

Nb(ニオブ)箔とアルミニウム(Al)箔を渦巻状に巻き付けたロッドを約百本組み込んだビレットを伸線(縮径)加工し、Nb箔とAl箔の厚さをサブ・ミクロンまで薄くします。初期の箔の厚さは0.1mm程度ですが、断面積を数万分の1にする伸線加工をして、厚さを1μm以下にします。本方式により数kmの長さのNb3Al(ニオブ3アルミニウム)線材を断線することなく製造することが可能となりました。



図2-20 Nb3Al大型コイル

試験装置に据付中のNb3Al大型コイル。



図2-21 Nb3Al、Nb3Sn(ニオブ3スズ)の臨界電流値の歪依存性

Nb3Al、Nb3Snの臨界電流値は歪が加わると減少しますが、Nb3Alの減少率は、Nb3Snに比べて小さく、大きな電磁力が発生する大型コイルに適するとともに、コイル製作方法の簡素化が可能となります。




 核融合炉で使用する高磁場・大電流コイル用超伝導線材として、Nb3Sn(ニオブ3スズ)やNb3Al(ニオブ3アルミニウム)に代表される化合物系超伝導線材があります。Nb3Sn線材は、既に実用化されていますが、大型コイルでの発生磁場は13Tが限界です。一方、Nb3Al線材は、16〜17Tの高磁場を発生することができ、先進超伝導線材として開発されてきましたが、従来は、長尺(数百m以上)のNb3Al線材を製作できず、コイル化できませんでした。
 Nb(ニオブ)とAl(アルミニウム)を化合して超伝導物質にするには、従来は1800 ℃以上の高温での熱処理を必要としたため、線材中の銅が溶けてしまう問題がありました(銅の融点は1085℃)。私たちはNbとAlの薄膜(厚さ1μm 以下)を積層する構造にして、750℃という銅が溶けない温度で50時間の熱処理を行い、十分に高い超伝導性能を発揮するNb3Al超伝導線材を製造する方法(図2-19)を開発しました。
 本方法を用いて、工業規模でNb3Al線材を製造することが可能となり、Nb3Al導体を用いた大型コイル(図2-20)を、世界で初めて製作することに成功しました。コイル製作では、Nb3Al線材が、図2-21に示すように、機械的歪に対する臨界電流値(超伝導状態で流せる限界の電流値)の劣化が少ないという長所を活用して、熱処理後にコイル化加工を行い、大型超伝導コイルの製作方法を簡素化できることを実証しました。
 本コイルの試験では、13T、46kAの定格通電に成功するとともに、定格運転時の25%増の電磁力がかかる12.5T、60kAの通電にも成功し、Nb3Al線材が、大きな電磁力を受ける大型コイルへの応用に適していることを示しました。これにより、現在国際協力で開発を進めているITERの次の段階として検討を行っている発電実証プラントで必要とされる高磁場(16T以上)、大電流(80kA以上)化の目安を立てることができました。



参考文献
小泉徳潔 他、核融合炉応用を目指したNb3Al 導体の開発と大型超電導コイルへの適用、低温工学、38(8), 391 (2003).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2003
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