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高度化する軽水炉燃料に対応する燃料安全研究
―高燃焼度燃料のLOCA 時挙動研究―




図3-1 LOCA 時の被覆管温度変化の例

冷却材の喪失に伴い被覆管は過熱するが、数分後には非常用冷却系(ECCS)の作動により冠水し、急冷されます。冠水までの酸化が著しい場合には、熱衝撃により破断する可能性があります。



図3-2 LOCA 模擬試験装置の模式図

石英管内に水蒸気を流し、赤外線イメージ炉を用いて模擬燃料棒を1200 〜 1500K まで加熱します。30 〜 5500 s 間加熱した後、模擬燃料棒下端より冷却水を導入し急冷します。



図3-3 被覆管酸化割合と初期水素濃度に関する破断マップ

人工的に水素を添加した未照射ジルカロイ被覆管に対する試験結果です。酸化量が比較的多くなると急冷時に破断します。破断する酸化量の下限値は、水素添加量の増大とともに低下します。




 軽水炉では、燃料棒の長期間利用(高燃焼度化)やウラン−プルトニウム混合酸化物の利用、燃料ペレットを密封する被覆管の材質改良が進められようとしています。このような軽水炉燃料の高度化は、資源の有効利用や放射性廃棄物発生量の低減の点で大きなメリットを生みますが、燃料の健全性や安全性を損なうものであってはなりません。私たちは、事故条件を模擬した試験を行い、事故時における燃料の安全性を確認しています。
 原子炉の安全設計にあたって想定される事故のひとつに、原子炉から冷却材が流出してしまう冷却材喪失事故(LOCA)があります。LOCA 時には燃料棒は最高1450K 程度まで過熱しますが、数分後には非常用炉心冷却系(ECCS)の作動により、冠水し、冷却されます(図3-1)。被覆管は、冠水するまでに酸化し脆化するため、ECCS作動時の熱衝撃により破断する可能性があります。また、高燃焼度化に伴う被覆管の水素吸収量の増加は、一般に被覆管の脆化を促進します。そこで、人工的に水素を吸収させた模擬高燃焼度被覆管(PWR 用ジルカロイ-4)を用いてLOCA 模擬試験を行い(図3-2)、被覆管が急冷時に破断する最も低い酸化量(破断限界)は水素吸収により低下する傾向にあることを明らかにしました(図3-3)。現在は、原子力発電所において使用された被覆管に対する試験を進めており、高燃焼度化や被覆管材質の変更が急冷時の破断限界に及ぼす影響を調べています。得られた成果は、国が行う安全審査に役立てられます。



参考文献
F. Nagase et al., Study of High Burn up Fuel Behavior under LOCA Conditions at JAERI: Hydrogen Effects on the Failure Bearing Capability of Cladding Tubes, 29th Nuclear Safety Research Conference, Washington, U.S.A., October 22, 2001, NUREG/CP-0176 (2002).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2003
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