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液体水銀/固体金属境界面にマイクロピットが!
―パルス陽子線入射に伴う圧力波伝播が引き起こすピッティング損傷―




図4-1 陽子線入射による瞬時発熱と圧力波の発生

水銀の熱膨張により発生した圧力波は、音速で容器壁面に向かって伝播・衝突し、壁面と水銀との境界で反射・透過を繰り返します。この過程で、容器壁面にマイクロピット群が形成され損傷を与えると考えられています。



拡大図(39KB)

図4-2 マイクロピット群の成長挙動(レーザー顕微鏡による観察)

104 回以下では独立したピットが微小領域の塑性変形により形成されますが、105 回から106 回ではピットが重なり合い、107 回以上では損傷は全面に広がり、質量減少を伴った侵食が生じます。




 世界的に高出力の中性子源の開発が行われており、中性源となるターゲット材として液体水銀が使用されようとしています。図4-1 に示すように、大強度のパルス陽子線が水銀ターゲット中に入射するときに、液体水銀内部では急激な発熱反応に伴い膨張波が発生します。膨張波は圧力波となって容器に向かって水銀中を音速で伝播し、容器を急速に押し広げようとします。このとき容器には過大な荷重が加わると共に、容器の急速な変形と容器壁面における応力波の反射・透過により水銀との境界付近で局所的に負圧が生じます。このような圧力波の伝播過程は、数値シミュレーションである程度理解できていました。さらに、数値シミュレーションの精度を向上させると共に、そのモデルの確証を得るために、機械的に衝撃圧力を水銀に負荷する簡易実験を行ったところ、水銀と固体金属の境界に沿ってマイクロピットを多数観測しました。これは、圧力波伝播過程で生じた負圧によりキャビテーションが誘発されたためと考えています。このような原研における実験事実が端緒となり、米国では陽子線入射によるマイクロピット形成に関する追従実験を行い、同様な損傷形態を観測しています。
 私たちが開発を進めている核破砕中性子源では、1秒間に25 回ものパルスが水銀中に入射されます。したがって、期待されるターゲット容器の寿命中に、108 回以上のパルス入射を受けますので、マイクロピット群の形成による損傷が容器の寿命を大きく左右すると考えられます。そこで、高サイクルのパルス圧力波を電磁力で負荷できる新たな実験装置を開発し、マイクロピット群の発生メカニズム、成長過程を探求すると共に、損傷データの構築を図っています。これまでに、107 回を超える高サイクル衝撃圧負荷実験を行い、図4-2 に示すように負荷パルス回数によるマイクロピット群の形成挙動から、微小領域の塑性変形と質量減少を伴う損傷形態に分類できることを明らかにし、質量減少を推定できる実験式を導出しました。さらに、容器材料表面に表面硬化処理を施すことにより損傷をある程度抑制できることが分かりました。これらの知見は、世界的にも注目されており、ターゲット容器の設計に反映されています。



参考文献
M. Futakawa et al., Erosion Damage on Solid Boundaries in Contact with Liquid Metals by Impulsive Pressure Injection, Int. J. Imp. Eng., 28, 123 (2001).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2003
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