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病態蛋白質の挙動を中性子で探る
―中性子及びX 線小角散乱によるアミロイド繊維形成過程の研究―




図4-6 ニワトリ卵白リゾチームのアミロイド繊維形成の相図および形成過程の模式図

種々の蛋白質濃度およびエタノール濃度において測定したニワトリ卵白リゾチーム溶液のX 線、および中性子小角散乱曲線の解析から得られた、各条件におけるニワトリ卵白リゾチームの状態を表す相図です。この結果から、アミロイド繊維形成過程は、模式図のように、2量体の形成、プロトフィラメントの形成、そしてアミロイド繊維の形成という経路で、段階的に進むことが明らかとなりました。



図4-7 時分割中性子散乱により得られたニワトリ卵白リゾチームのアミロイド繊維形成過程における構造パラメーターの時間変化

中性子散乱曲線の解析から得られる構造パラメーター(繊維の断面の形に関係する断面の慣性半径、繊維の単位長当りの分子量に比例するIX(0)/c、繊維の会合度に関係する積分強度)の時間変化の仕方から、繊維断面が太くなるアミロイド繊維形成に続いて、断面はそのままで会合度が上がるアミロイド繊維同士の会合が起こることがわかりました。




 アルツハイマー病を含む種々の神経疾患や牛海綿状脳症(BSE、いわゆる狂牛病)等のアミロイド疾患は、蛋白質がアミロイドと呼ばれる繊維状構造体を形成し、それが沈殿して組織に沈着するという特徴を持っています。近年、アミロイド疾患に関係した蛋白質だけでなく、広く種々の蛋白質がアミロイド繊維を形成することが知られてきました。アミロイド繊維形成機構の解明はアミロイド疾患の治療・予防という医学上のみならず、蛋白質化学上からも非常に重要な問題となっています。
 私たちは、アミロイド繊維形成のモデル蛋白質としてニワトリ卵白リゾチーム(HEWL)を用い、そのエタノール溶液中でのアミロイド繊維形成過程をX 線小角散乱や中性子小角散乱を用いて調べています。小角散乱法は、溶液中での蛋白質の形態や会合状態を知ることができる重要な測定手段です。様々なHEWL 濃度、エタノール濃度中でのX 線及び中性子小角散乱実験の結果からアミロイド繊維形成の相図を作成し、HEWL のアミロイド繊維形成は、2量体の形成、プロトフィラメントの形成、そしてプロトフィラメントの会合によるアミロイド繊維の形成という経路で進むことを明らかにしました(図4-6)。さらにアミロイド繊維形成過程におけるHEWL の構造状態の時間変化を時分割中性子小角散乱法によって調べています。得られた構造パラメーターの時間変化の仕方から、プロトフィラメントの会合によるアミロイド繊維の形成に続き、アミロイド繊維同士の会合が起こることが明らかとなりました(図4-7)。
 このように、中性子小角散乱法やX 線小角散乱法を用いてアミロイド繊維形成過程を明らかにすることが、アミロイド疾患の病態の解明、ひいては治療・予防への貢献へとつながることが期待されます。



参考文献
Fujiwara et al., Effects of Salt Concentration on Association of the Amyloid Protofilaments of Hen Egg White Lysozyme Studied by Time-resolved Neutron Scattering, J. Mol. Biol., 331, 21 (2003).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2003
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