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小型システムで世界最強のレーザー光を発振
―チタンサファイアレーザーで世界最高の850兆ワット達成―




図5-1 チャープパルス増幅法(CPA法)

レーザー発振器から出力されたレーザー光の発光時間(パルス幅)をはじめに伸張します。次いで複数のレーザー増幅器により、レーザー媒質の損傷限界まで増幅し、最後に時間的にパルス幅を圧縮します。パルス幅が圧縮された分、出力が高くなり、レーザー媒質の損傷限界値を超えた高出力レーザー光が得られます。



図5-2 ペタワット・チタンサファイアレーザーシステムの外観

テーブルサイズは約90平方メートルあります。



図5-3 パルス幅計測結果

パルス幅33フェムト秒、出力850兆ワット(0.85ペタワット)の発光に成功しました。


 世の中には、蛍光灯、電球、レーザーといった様々な光源が存在しますが、こういった光源により人間はどれくらい強い光を作り出せるでしょうか?
 チャープパルス増幅法(図5-1)と呼ばれるレーザー増幅方法の登場により、これまで人類が経験したことがない強力な光を発生させることが可能になってきています。私たちは世界で初めてペタワット(千兆ワット)にも達する強力なレーザー光を、実験室に入るレーザー装置で発生させることに成功しました。この光を集光することにより、1021W/cm2以上の途方もなく強い光電場を発生することが可能です。この光電場中では物質の原子は瞬時にバラバラにされ、電子は加速され光の速さに近づき、相対論的効果で質量変化が起こります。
 この装置達成のために、レーザーの発光時間(パルス幅)を極限まで短くし、理論限界まで増幅効率を高めることにより、超高出力レーザー装置を小型化する研究開発を進めてきました。しかし、ペタワットまで増幅しようとすると、スペクトルが変化してしまい、短いパルス幅が得られない問題がありました。今回、2枚の薄膜フィルタによりスペクトルを矯正する新しい方法でこの問題を克服しました。また、レーザー媒質であるチタンサファイア結晶内の「寄生発振」と呼ばれる不要な発光がレーザー光の高効率増幅を妨げる問題を、結晶の側面に特殊なプラスチックを包み込む技術開発により克服しました。そして、実験室サイズのチタンサファイアレーザーシステム(図5-2)によって、30兆分の1秒(33フェムト秒)という極めて短い時間に、世界最高出力である850兆ワット(0.85ペタワット)のレーザー光を発生させることに成功しました(図5-3)。
 本レーザーシステムにより超高強度、超高圧、超高密度等の極限状態における物理現象の研究が飛躍的に進むものと考えられます。例えば、この研究はレーザーを利用する小型放射線源の開発に繋がり、医療診断への応用や粒子線がん治療装置の小型化・普及などに貢献するものと期待されています。



参考文献
M. Aoyama et al., 0.85 PW, 33 fs Ti:Sapphire Laser, Opt. Lett., 28(17), 1594 (2003).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2003
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