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ピコ秒の時間分解能で微細構造観察に成功
―X 線レーザーで強誘電体材料表面を見る―




拡大図(40KB)

図5-4 チタン酸バリウム単結晶の瞬間スペックル測定

この実験では、スリットを通過したX 線レーザーをチタン酸バリウムに照射し、その表面から反射してくるX 線が干渉してつくるスペックルをX 線検出器で測定しました。チタン酸バリウムは、常温でマイクロメートルオーダーの微細なドメイン構造を持ち、その空間構造によって反射X 線のスペックルが変化します。室温(24 ℃)の場合に比べてキュリー温度(強誘電性を失う臨界温度。ここでは約122 ℃)近傍ではスペックルパターンの幅が小さくなって、空間構造のサイズが大きくなっていることが分かります。また、キュリー温度以上(130℃)では、ドメイン構造が消えてしまうことも分かります。




 放射光に代表される高輝度なX線光源は、物質科学や生命科学などの様々な分野に応用され、多くの新しい研究成果を生み出しています。さらに、次世代のX線光源として干渉性の高いX線レーザーの研究開発が進められています。私たちのグループでは、軟X線領域において世界に先駆けて干渉性の高いレーザーの開発に成功し、この軟X線レーザー光を用いて、ピコ秒オーダーの時間分解能で強誘電体材料であるチタン酸バリウム(BaTiO3)の表面微細構造を観察することに成功しました。
 従来、微細構造の観察には走査型プローブ顕微鏡や電子顕微鏡が用いられてきましたが、これらは数分程度の測定時間を必要とするため、短時間で物質の微細構造が変化する様子を直接観測することはできませんでした。そこで、光量子科学研究センターで開発した波長13.9nm、パルス幅数ピコ秒の極短パルス軟X 線レーザーを用いて、固体表面に照射したとき反射してくるX 線パターン(スペックル)を測定することにより、ピコ秒オーダーの極めて高い時間分解能とナノメートルオーダーの空間分解能を併せ持つ物質表面の観察法を開発しました。この手法を用いてチタン酸バリウム単結晶表面からの瞬間スペックル測定に成功し、ピコ秒オーダーの時間分解能で、瞬間的な表面微細構造(ドメイン構造)を捉え、温度上昇とともにドメイン構造が消滅していく様子を明らかにしました(図5-4)。
 この高い時間分解能と空間分解能を併せ持つ計測法は、今後、ナノスケールの表面構造を解析するための新しい手法として、様々な物性研究への利用が期待されます。



参考文献
R. Z. Tai et al., Picosecond Snapshot of the Speckles from Ferroelectric BaTiO3 by Means of X-Ray Lasers, Phys. Rev. Lett., 89, 257602 (2002).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2003
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