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高い耐熱性をもつMo/Si多層膜反射鏡の開発に成功 |
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波長30nm 以下の軟X線領域では、物質によるX線の反射率が極端に小さくなります。このため、反射鏡としては、基板上に2種類、またはそれ以上の物質を交互に何十層も積層した多層膜が用いられています。多層膜反射鏡の中でもMoとSiを組み合わせたMo/Si多層膜反射鏡は、波長13nm(1nm = 10-9m)近傍の軟X 線領域で高い反射率が得られるため、波長14nmで発振するX線レーザーや、次世代のリソグラフィー技術として期待されているEUVL用の光学素子として、積極的に利用されています。しかし、X線レーザーや放射光のような強力なX線を発生する光源で利用する場合、多層膜反射鏡には反射率が高いだけでなく、高い耐熱性も要求されます。Mo/Si多層膜は300℃以上の温度で、多層膜の界面においてMoとSiが拡散によって混ざり合い、構造が不安定になるため、反射率が低下することが知られています。 私たちはMo/Si多層膜の耐熱性を向上させるため、化学的だけでなく熱的にも安定した物質であるシリコン酸化物(SiO2)に着目し、界面拡散を防ぐことを目的としてMo層とSi層の間に薄いSiO2 層を挿入した様々な多層膜を製作しました(図5-5)。そして、製作した多層膜の耐熱性と反射率の評価を行いました。 従来のMo/Si 多層膜は熱処理温度が300℃を超えると多層膜の構造が大きく変化しますが、SiO2層を挿入した全ての多層膜は構造の変化が小さく、耐熱性が向上しました。界面に挿入するSiO2層の膜厚が大きいほど、多層膜の耐熱性は向上しますが、反対に軟X線反射率は低下してしまいます。 しかし、Mo/Si/SiO2多層膜のようにSiO2層を挿入する界面位置を選択することや、界面に挿入するSiO2層の膜厚を最適化することにより、従来のMo/Si多層膜のもつ高い軟X 線反射率を維持したまま、高い耐熱性を実現することに成功しました(図5-6)。 高い耐熱性と高い軟X 線反射率とを両立した多層膜反射鏡の開発に成功したことにより、X線レーザーや放射光のような強力な光源での実験利用に際して、光学素子の冷却を簡略化することが出来ます。これにより実験装置全体の小型化、簡素化が可能となり、高温下といった過酷な条件での実験が、より促進されることが期待されます。 |
●参考文献 M. Ishino et al., Optimization of the Silicon Oxide Layer Thicknesses Inserted in the Mo/Si Multilayer Interfaces for High Heat Stability and High Reflectivity, J. Appl. Phys., 92, 4952 (2002). |
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