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高強度レーザーで探るクラスター爆発過程
―レーザー駆動小型放射線源の開発―




図5-7 高強度レーザー光とクラスターとの相互作用の概念図

高強度レーザー光をクラスターに照射すると、クラスターは大爆発を起こし、高エネルギーイオン、電子、X 線を発生します。



図5-8 Xeクラスターの爆発によって発生した多価イオンのエネルギー分布

照射するレーザー光のパルス幅を20 fs(緑色)から引き延ばしてゆくと(青色)、エネルギー分布はしだいに高エネルギー側へシフトしていきます。パルス幅が500 fs のとき、最も効率よく高エネルギー多価イオンが発生することが明らかになりました。



図5-9 高強度レーザーと巨大Ar クラスターとの相互作用によって発生したX 線のスペクトル

He-like Ar(Ar16+)の強い1s2p-1s2 遷移(Heα1)、および、そのサテライトライン(Li-like Ar(Ar15+)〜F-like Ar(Ar9+))に対応するX 線放射が観測されました。また、He-like Ar(Ar16+)の1snp-1s2 (n=3-6)遷移(Heβ〜 Heε)も観測されています。




 私たちが開発したテーブルトップサイズの高強度チタンサファイアレーザー(T キューブレーザー)を用いることによって、20 fs(fs=10-15 s)という非常に短い時間内に、100 TW(TW=1012 W)のエネルギーを発生させることができます。これは、世界中の発電設備をフル稼働させた場合の約30 倍のパワーに相当します。
 一方、数十個から数万個程度の原子や分子の集合体である“クラスター”は、気体とも固体とも異なる性質をもつ新たな物質として注目を集めています。このクラスターには、レーザー光のエネルギーを吸収しやすいという特徴があり、T キューブレーザー光を照射すると、クラスターは瞬時にプラズマ化し、激しい電離・加熱過程を経て大爆発を起こします(図5-7)。この際、MeV(=106 eV)を超える高エネルギー多価イオンの発生、高輝度X 線の発生や核融合反応による中性子の発生等、従来の摂動理論の範囲を超えた様々な新しい現象が観測されており、これらは、コンパクトかつクリーンな放射線治療用多価イオン源、極短パルスX 線源や中性子源としての利用が期待されています。これまでは、加速器のような高価で大規模な実験設備を用いなければ、このような高エネルギー粒子やX 線を発生させることができませんでした。
 私たちは、T キューブレーザー光の特性(パルス幅、チャープ等)を制御することにより、クラスターの爆発過程を最適化し、従来の約2 倍のエネルギー(平均エネルギー=100 keV)をもつ多価イオンを効率よく発生させることに成功しました(図5-8)。また、直径約1 μm の巨大なクラスターを用いることによって、高輝度X 線の発生にも成功しました(図5-9)。発生したHeα1線(3.14 keV)の強度(〜 108 photons/shot)は、X 線回折実験等の光源として十分利用可能な強度を有しています。
 今後は、T キューブレーザー光特性のさらなる高度化と、スーパーコンピュータを用いた粒子シミュレーションとを組み合わせた研究を行い、世界初のレーザー駆動小型放射線源の実用化への貢献を目指しています。



参考文献
Y. Fukuda et al., Optimized Energetic Particle Emissions from Xe Cluster in Intense Laser Fields, Phys. Rev. A67, 061201(R) (2003).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2003
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