5-5

自己再生する自動車排ガス浄化触媒
―排ガス中で高活性を維持し続けるインテリジェント触媒―




図5-10 エンジン直下のインテリジェント触媒

従来型の自動車触媒は車両の床下に設置されているのが普通ですが、インテリジェント触媒はガソリンエンジンのマニフォールド(集合管)直下に取り付けられています。この場所は熱負荷が最も大きい場所で、従来型触媒では激しく劣化しますが、インテリジェント型触媒は自己再生現象により劣化せず、高い触媒活性を維持します。これにより従来では難しかった、エンジン始動直後の排ガスに対しても、高い浄化性能を発揮することができるようになりました。



図5-11 インテリジェント触媒の自己再生(上段)と従来型触媒の劣化(下段)

ガソリンエンジンの排ガス中では毎秒数回±3%程度の酸素濃度のゆらぎが生じています。この雰囲気変動を利用し、貴金属パラジウムが酸化雰囲気ではペロブスカイト結晶に固溶し、還元雰囲気では析出することを可逆的に繰り返すために、結果として貴金属の粒成長は抑制されます。一方、従来型の触媒では貴金属の粒径を小さくするメカニズムは存在しないために、肥大化による表面積の減少が生じ、触媒活性の劣化が避けられませんでした。




 世界で初めて貴金属が自己再生するインテリジェント型の自動車排ガス浄化触媒を、ダイハツ工業(株)と共同で開発することに成功しました。Spring-8の放射光を用いて、そのメカニズムを明らかにすることにより、貴金属資源の大幅な節約を可能にしました。
 ガソリン自動車のエンジンからは窒素酸化物(NOx)、ガソリンの未燃焼成分である炭化水素(HC)と一酸化炭素(CO)が生成されますが、これらを無害な二酸化炭素、水、窒素、酸素などに変えるのが自動車触媒です。触媒には、白金、ロジウム、パラジウムなどの貴金属が多量に含まれています。
 近年の厳しい環境基準に対応し、図5-10 のようなエンジン直下に搭載できる耐熱性の高い触媒の開発が焦点となっています。
 高温の排ガス環境下では貴金属粒子が移動・合体・肥大化し、その表面積が減少するのが活性低下の原因でした。貴金属粒子の肥大化を防ぐため、貴金属をペロブスカイト酸化物に複合させました。この新型触媒は、アクセルペダルの操作などで起こる排ガス中の酸素濃度の変動に対して構造的に応答し、貴金属をペロブスカイト酸化物内に取り込んだり、外に吐き出したりを繰り返します。
 その結果、触媒は自動車の運転中に自然に若返り、貴金属粒子は新品同様の小さいサイズを保ったまま、活性を維持し続けます(図5-11)。
 この貴金属粒子の自己再生メカニズムが明らかにされたため、これまで大量に消費されていた貴金属を7割から9割削減しても、より高活性を維持することが可能になりました。



参考文献
Y. Nishihata et al., Self-Regeneration of a Pd-Perovskite Catalyst for Automotive Emissions Control, Nature, 418, 164 (2002).

ご覧になりたいトピックは左側の目次よりお選びください。

たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2003
Copyright(c) 日本原子力研究所