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未来の光デバイス材料の探求
―強い電子相関を持つ1 次元電子系の電子状態―




図5-12 非線形光学材料による光スイッチング

ポンプ光によって、プローブ光をON, OFF できます。



図5-13 [Ni(chxn)2Br]Br2の結晶構造

b軸方向にNi原子とBr原子が交互に並び、1次元電子状態を形成しています。



図5-14 [Ni(chxn)2Br]Br2に対する光電子分光の結果

図中黒い部分が電子のエネルギー分散に対応します。




 低次元物質は、その結晶構造や電子構造の特異性から、通常の3次元物質ではみられない新奇な物性を示します。特に、最近発見された強相関1次元電子系物質では、非常に大きな非線形光学効果が見出されて注目を集めています。非線形光学材料に光を照射すると、材料そのものの光の透過率が変化するため、図5-12 のように光の照射によって別の光のスイッチングや変調が可能であり、将来的な光通信用デバイス用材料として、この効果の大きい物質の探索・開発が進められています。今回、これら非線形光学材料を示す1次元電子系の中でも、最も大きな非線形光学効果を示すハロゲン架橋金属錯体[Ni(chxn)2Br]Br2について、角度分解光電子分光法を用いてその電子状態を調べ、この物質の非常に大きな非線形光学効果の起源に迫りました。[Ni(chxn)2Br]Br2は図5-13 に示したような結晶構造を持っていますが、2個のシクロヘキサン分子とNi原子からなる錯体とBr原子が、b軸方向に交互に並んでおり、この方向に1次元電子状態を形成しています。角度分解光電子分光は、試料に紫外線やX線を照射し、光電効果によって試料表面から出てくる電子のエネルギーと方向を計測することによって、試料中にある電子のエネルギーと運動量の関係(エネルギー分散)を計測する手法です。この結晶の1次元方向(図5-13 のb軸方向)に対して測定を行ったところ、この物質中の電子の「エネルギー分散」は図5-14 のようになることが分かりました。この結果を、この物質よりも小さい非線形光学効果を示す他の1次元電子系に対する結果と比較したところ、電子のエネルギー分散の様子がかなり異なっていることが分かりました。これら実験的に得られた分散関係を、NiとBrの電子準位が並んだモデルを用いて解析したところ、NiとBrの電子状態のエネルギー差が大きいことがこの物質の特徴であり、また大きな非線形光学効果の原因であることが分かりました。
 これらの結果は今後の物質開発にフィードバックされ、さらに大きな非線形光学効果をもつ物質の開発に役立てられます。



参考文献
S.I. Fujimori et al., Angle-Resolved Photoemission Study of MX-Chain Compound [Ni(chxn)2Br]Br2: Spin-Charge Separation in Hybridized d-p Chain, Phys. Rev. Lett., 88, 247601 (2002).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2003
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