6-1

耐熱性フィルム表面の凹凸パターンを作り分ける
―イオンビームをナノテクノロジーに利用する―




図6-1 イオンビームによる耐熱性フィルムの凹凸パターンの作製

ポリイミドとポリイミド前駆体は、上記の化学構造です。耐熱性の低い前駆体フィルムを利用すると、イオンビームにより孔状の凹パターンと突起状の凸パターンが得られます。



図6-2 イミド化率制御による凹凸パターンの作り分け

ポリイミド前駆体のイミド化率を正確に制御することで、イミド化率67〜83%では微細孔(凹パターン)を、イミド化率88〜94%では突起パターン(凸パターン)をそれぞれ作り分けられます。




 重イオンビームなどの高エネルギー荷電粒子が高分子フィルムを通過すると、その周辺ではイオン化に伴う切断などで、高分子フィルムは局所的な損傷を受けます。この損傷部は、化学エッチングによって微細孔を有するイオン穿孔膜として加工することができます。しかし、電子デバイスに使用可能な耐熱性ポリイミドフィルムではきれいな穿孔膜が得られていませんでした。そこで耐熱性、耐薬品性が低い前駆体であるポリアミド酸フィルムにイオン照射を行い、さらに、このポリアミド酸のイミド化率を熱硬化温度によって制御することにより、パターン形成性の向上を試みました。この部分的にイミド化された前駆体フィルムを用いた場合イミド化温度145℃でフィルム表面に孔径0.3μmの微細孔(凹パターン)が生成するのに対し、150℃では直径1.5μm、高さ1μmの突起物(凸パターン)が生成しました(図6-1)。イミド化率を正確に制御することで、イミド化率67〜83%では凹パターンを、イミド化率88〜94%では凸パターンをそれぞれ作り分けることに成功しました(図6-2)。
 イミド化率の違いによって凹凸パターンが反転する現象は、イオンビーム照射により、高分子鎖の分解と架橋のわずかな変化によると考えられます。さらに、放射線に よって分解されやすいスルホン構造を高分子に付与することで分解反応を促進し、よりきれいな凹型の微細孔を作製できました。耐熱性高分子フィルムの凹パターンは電子デバイスへ、凸パターンはマイクロマシーンの歯車など、ナノテクノロジーへの展開が期待されています。



参考文献
Y. Suzuki et al., Ion Beam Induced Dual Tone Imaging of Polyimide via Two Step Imidization, Chem. Mater., 14, 4186 (2002).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2003
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