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ダイオキシン汚染の根を絶つ!
―ごみ燃焼排ガスへの電子ビーム照射で分解・無害化―




図6-6 ダイオキシンとは?

酸素を介して2箇所で結合したベンゼン環の任意の位置に塩素が付いた構造です。多くの異性体があり、毒性の強さも異なります。図は最も毒性が高い2、3、7、8テトラクロロダイベンゾダイオキシンです。



図6-7 ごみ焼却場でのダイオキシンの分解試験

ごみ焼却施設からの燃焼排ガス、毎時4 万m3の中の毎時千m3を照射試験室に導入し、電子ビーム照射を行いました。照射前後のガスを採取し、ガスクロマトグラフ質量分析計を用いて、ダイオキシン濃度を測定、比較しました。



図6-8 分解率と分解の機構

電子ビーム吸収量10kGyで80%、15kGyで90%の除去率が得られました。この試験と並行して実施した基礎研究の結果から、ダイオキシンの分解は、(1)エーテル結合の切断、(2)ベンゼン環の開裂、(3)塩素の脱離によるものと推測されました。



 ごみなどを焼却する際に発生するダイオキシンは、急性毒性がサリンの十倍以上、さらに極微量でも内分泌かく乱作用(環境ホルモン作用)があり、また、微生物などで分解されにくいため、環境中に排出された後もその毒性は長期間持続することが知られています。環境省は2002年12月から、欧米並みの厳しいダイオキシン排出規制を実施しましたが、安価で有効な処理技術が開発されておらず、中小規模の焼却炉の多くは運転停止せざるを得なくなっています。私たちは、火力発電所排ガスからの酸性雨原因物質の除去や、工場換気ガスに含まれる有害な揮発性有機物の分解など、電子ビームを用いた環境浄化技術の研究開発を行ってきました。そこで、これらの経験を活かして、ごみ燃焼排ガス中のダイオキシン分解技術の研究開発に取り組みました。
 この研究開発では、ごみ焼却場内に低エネルギー電子加速器や反応器、各種分析機器やガス配管などから成る試験装置を設置し、実際の排ガスを用いて行うパイロット規模試験と、分解機構などをモデル化合物を用いて調べる基礎研究を行いました。その結果、電子ビーム照射で実排ガス中のダイオキシンが効果的に分解できることを世界で初めて実証するとともに、分解機構や毒性の低減に関する情報を得ました。また、ガスの温度や流量と除去率との関係など、実用規模プラントの概念設計を行う上で必要な最適処理条件も明らかにしました。電子ビーム処理は、活性炭を用いる吸着処理などに比べ、ダイオキシンを分解・無害化できるため、2次汚染が避けられる、既設焼却炉への設備付加が容易、処理コストの低減が見込まれるなどの長所を持っています。
 そこで、これらの開発の成果を基に、現在、民間会社との協力により、実用化に向けた検討を進めています。



参考文献
K. Hirota et al., Application of Electron Beam for the Reduction of PCDD/F Emission from Municipal Solid Waste Incinerators, Environ. Sci. Technol., 37(14), 3164 (2003).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2003
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