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放射線抵抗性細菌は紫外線にもめっぽう強い




図6-9 放射線によって生じるDNA損傷

左図:電離放射線がDNAの近傍にある水分子を電離することで、活性酸素種が生じます。活性酸素種がDNAの塩基部分を酸化します(放射線の間接効果)。電離放射線がDNAに直接ヒットした場合、DNA に様々な修飾が起こります(放射線の直接効果)。右図:非電離放射線である紫外線は、ピリミジン塩基2量体形成を引き起こします。電離放射線照射では、ピリミジン塩基2量体形成が起こりません。



図6-10 ラジオデュランスの紫外線に対する生存曲線

原核生物型核酸除去修復遺伝子uvrAの機能が欠損した株の紫外線耐性が正常株と同程度なのに対して、uvrA及び真核生物型修復遺伝子uvdeの機能が欠損した株は、高度の紫外線感受性を示します。



図6-11 ラジオデュランスuvde遺伝子から作られるDNA修復酵素のアミノ酸配列

紫外線高度感受性変異株では、DNA修復酵素の133番目のアミノ酸がアルギニン(Arg)からグルタミン(Gln)に、311番目のグルタミン酸(Glu)がリジン(Lys)に変異しており、この変異がDNA修復酵素の機能欠損を起こします。




 近年、オゾン層破壊による有害紫外線の問題がクローズアップされています。光合成をする微生物が地球大気中に放出する酸素によって、宇宙放射線や太陽紫外線を遮るオゾンが蓄積され始めたのは19億年前、成層圏に安定なオゾン層が形成されたのは、大気中の酸素濃度が20%に達した約5億年前と言われています。この安定なオゾン層形成を待って、生物の陸上への進出が可能となったのです。
 紫外線によって起こるDNAの損傷は、ガンマ線などの電離放射線によって起こるものと異なっています(図6-9)。放射線抵抗性細菌として知られているデイノコッカス・ラジオデュランスは、紫外線にも大変強いという性質をもっています(図6-10)。ラジオデュランスが誕生したのは今から約20億年前のことですが、地球に安定なオゾン層が形成された5億年前までの間に、ラジオデュランスは放射線だけではなく、紫外線に対する耐性をも、進化の過程で獲得し生き残ってきたと考えられています。
 紫外線損傷DNAは、主に光回復修復機構と核酸除去修復機構によって修復されます。しかし、ラジオデュランスには光回復修復機構がありません。原核生物型核酸除去修復遺伝子の機能を失ったラジオデュランスの変異株は、紫外線に耐性を示すことが知られており、なぜ紫外線耐性を失わないのかが謎でした。私たちの解析により、ラジオデュランスが原核生物型の核酸除去修復遺伝子の他に、赤パンカビや出芽酵母といった真核生物が持つ核酸除去修復遺伝子を持つことが分かりました(図6-11)。すなわち、ラジオデュランスは、進化の過程で、原核生物型と真核生物型の2つの独立した修復経路を獲得し、両方の経路が働くことで紫外線に著しく強い性質を示しているのです。



参考文献
S. Kitayama et al., Cloning of Structural Gene of Deinococcus radiodurans UV-Endonuclease β, Biosci. Biotechnol. Biochem., 67(3), 613 (2003).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2003
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