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DNAの傷が見えた!




図6-12 λDNA全長(上)と脱塩基部位(AP部位)が標識されたλDNA試料(下)

AP部位が誘発されたDNAにビオチン化ARPおよびCy5結合ストレプトアビジンを反応させました。
DNA全体はYOYO-1で染色(緑色)され、4つのAP部位がCy5で蛍光標識(赤色)されています。




 イオンビームは大きなエネルギーを局所的に与えるためにDNA にクラスター状の損傷が誘発され、これが変異の原因になると言われています。しかし、DNA上のどの位置にどの種類の損傷がどの程度生じているのかは全く分かっていませんでした。それぞれのDNA損傷を正確に検出する方法がなかったからです。DNA損傷には、塩基の酸化やDNA鎖の切断など数十種類以上存在すると言われていますが、その中でも脱塩基損傷(AP部位)は最も多く誘発される代表的なDNA 損傷の1つです。AP部位の生成量を知るために、ELISA法などが開発されていますが、DNA上の位置や数を正確に検出する方法はありませんでした。
 そこで私たちは、AP部位にほぼ100%結合できるアルデヒドリアクティブプローブ(ARP)と蛍光色素であるCy5を結合したストレプトアビジンを組み合わせることによって、1分子のAP部位をDNA上に特定することに成功しました。
 図6-12は、DNAのモデル材料であるλDNA上に作った脱塩基部位を蛍光により検出したものを表わしています。まず、DNAをクエン酸で処理してAP部位を誘発させました。次に、ビオチン化させたARPを脱塩基部位に結合させ、その後、Cy5を結合させたストレプトアビジンを反応させることによって、AP部位を蛍光で標識しました。同様の試料をELISA法で比較したところ、標識された点の数と定量された数が一致し、AP部位はほぼ100%の確率で標識されていることが明らかとなりました。図6-12では、4つのAP部位が赤色に標識されています。本技術は、正確にDNA損傷の場所と数を検出できることから、突然変異や細胞死の検出など、医療診断用技術としての応用が期待されています。



参考文献
T. Hirose et al., Direct Visualization of Abasic Sites on a Single DNA Molecule Using Fluorescence Microscopy, Photochem. Photobiol., 76(2), 123 (2002).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2003
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