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ポジトロンイメージングで見る植物のイオン吸収




図6-13 ポジトロンイメージングで見たイオンチャネルの機能阻害

オオムギ幼植物が根から吸収した13NO3-の地上部(葉)への移行をポジトロンイメージング装置により経時的に計測しました。13NO3-供給後の同じ時間での画像を比べると、阻害剤を添加したオオムギで移行量が減少していることがわかります。



図6-14 地上部へ移行した硝酸イオン量(13NO3-
PETIS 検出器の視野内に到達した13NO3-移行量を示します。阻害剤を添加したオオムギでも13NO3-が地上部に輸送されるのに必要な時間は阻害剤のないオオムギと変わらず、時間あたりの移行量だけが減少していることがわかります。



図6-15 根が吸収した硝酸イオン(13NO3-)のラジオグラフィ阻害剤を添加したオオムギでは、地上部への移行量は阻害剤を添加していないオオムギに比べ少なくなっていますが、根は阻害剤を添加していないオオムギと同じくらい硝酸イオンを吸収していることがわかります。阻害剤は硝酸イオンの根への吸収自体には影響を与えていません。




 硝酸イオンは植物が利用する重要な栄養素のひとつです。植物の根で吸収された硝酸イオンが植物の中を移動して導管に入るためには、根の細胞膜を通過しなければなりません。この過程は、植物中での硝酸の輸送制御で重要な役割を果たしていると考えられています。そこで、私たちは硝酸イオンの細胞膜の通り道と考えられている「チャネル」を阻害する物質を使って、イオンチャネルの働きと硝酸イオンの吸収や輸送との関係を調べてみました。実験では、オオムギの幼植物に陰イオンチャネルの阻害剤を与え、根から吸収させた13NO3-(ポジトロン放出核種で標識した硝酸イオン)の若い葉への移行を、私たちが開発したポジトロンイメージング装置(PETIS)により計測しました(図6-13)。その結果、チャネル阻害剤を与えたオオムギでは、葉へ移行する13NO3-量がチャネル阻害剤を与えていないオオムギに比べて減少していることがわかりました(図6-14)。しかし、チャネル阻害剤を与えたオオムギでも、根が吸収した硝酸イオンの量は減っていないことがわかりました(図6-15)。このように、ポジトロンイメージング装置で生きた植物内での硝酸イオンの移行を計測することにより、チャネル阻害剤は硝酸イオンの膜透過だけに作用して、吸収には影響を与えないことを目に見える画像として示すことができるようになりました。



参考文献
T. Kawachi et al., Effects of Anion Channel Blockers on Xylem Nitrate Transport in Barley Seedlings, Soil Sci. Plant Nutr., 48(2), 271 (2002).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2003
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