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ブドウを静電加速器で高速に加速?
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クラスターは元来ブドウの一房のように同一の物体が集合した状態のことですが、ミクロの世界では数多くの原子や分子が集合してナノ粒子となった状態を指します。それが電荷を帯びたものをクラスターイオンと言います(図6-16)が、単原子のイオンとは異なって、少量の電荷で数多くの原子や分子を効率的に輸送できるとともに、物質の表面構造を効果的に形成することができます。近年、クラスターイオンのビーム技術はナノスケールの材料加工プロセスにおけるわが国の独自技術として注目されています。こうしたクラスターイオンを大量に生成して照射するのは容易ですが、エネルギーが極めて低いので放射線としての性質を発揮させることができません。 私たちはこれまで生成が難しかったMeV領域の高エネルギークラスターイオンに着目し、そのビーム生成・加速技術を開発するとともに、物質透過力とエネルギー作用性を活かした照射効果の研究に着手しました。その結果、3 MeVタンデム加速器とイオン源の動作条件の改善や最適化によって、10種類のクラスターイオン生成と6 MeV以上の加速に成功しました。現在ではナノアンペア以上のビームを提供できる国内唯一のクラスターイオン照射施設となり、新しい利用研究の先導的役割を果たしつつあります。これまでのビーム利用の成果として、誘起絶縁物への照射によって誘起される電気現象(図6-18)や、化学修飾効果、放射線物理の素過程等において単原子イオンとは異なる新現象が見出されています。 図6-18は、図6-17に示す実験条件のもとで、裏側に電極をつけた有機絶縁物(ポリカーボネート)のフィルムに炭素の単原子及びクラスターのイオンビームを真空中照射したときに電極に誘起される電流と、入射原子のフルエンスとの関係を表した結果です。誘起電流は絶縁物内の電荷挙動を反映しますが、単原子イオンではターゲットによる過剰電荷の蓄積と絶縁破壊が繰り返されるのに対して、クラスターイオンでは2次正電荷が大量に放出されることにより、ほとんど蓄積されないことがわかりました。このことから絶縁材料へのイオン注入で問題となる過剰電荷の蓄積による放電破壊を防ぐ手段として、クラスターイオン入射の有用性が明らかとなりました。 |
●参考文献 K. Hirata et al., Prevention of Electric Breakdown during Ion Bombardment of Organic Insulators Using a Cluster Ion Beam, Appl. Phys. Lett., 81(19), 3669 (2002). |
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