7-1

未知バークリウム同位体の観測に成功
―重い原子核の性質を調べる―




拡大図(57KB)

図7-1 迅速同位体分離装置の概念図

プルトニウム標的にリチウムイオンを照射してできる核反応生成物をガス気流によって約1 秒でイオン源へ搬送し、イオン化・質量分離します。磁場の設定により質量数241を持つ原子核だけを測定装置へ運ぶことができます。


図7-2 X線との同時計数で得られたバークリウム241のγ線スペクトルとX線の時間減衰

バークリウム241の崩壊に伴う3本のγ線とLX線、KX線が観測されています。X線の時間減衰からバークリウム241の半減期は4.6分であることが判りました。



 原子核は陽子と中性子で構成されています。陽子と中性子の数の組み合わせで原子核の構造は少しずつ変化し、時として予想外の性質を示します。天然に存在する原子核は約250種類ですが、人工的には2500種以上が確認されており、更に数千種の存在が予想されています。これら未発見の原子核の性質を調べることで、原子核の構造が少しずつ明らかにされています。
 陽子数が90を超える重い原子核は、陽子間の反発力で不安定性が増し、自発核分裂や多様な変形状態など様々な性質や構造を示すようになります。原子核の構造を調べるには、対象とする原子核を核反応で合成し、放出されるα線やγ線を精度良く測定する必要がありますが、このような重い原子核は生成量が非常に少なく、同時に生成する非常にたくさんの妨害核種に隠されて観測できません。特に寿命が10分以下でα線をほとんど放出しない原子核の研究は困難です。
 このような原子核を研究するため、私たちは核反応生成物を迅速にイオン化・質量分離する迅速同位体分離装置(図7-1)を開発しました。この装置は、核反応生成物をガス気流によって約1秒でイオン源へ搬送し、イオン化・質量分離します。対象とする原子核だけを迅速に分離して測定装置へ運ぶことができるので、生成量が非常に少ない短寿命核からの微弱なγ線を高感度に検出できます。
 この装置を用いて、プルトニウムにリチウムイオンを衝突させてできる非常にたくさんの核種の中から質量数241を持つ核種のみを分離し、これまで未発見であった同位体バークリウム241の崩壊に伴うX線とγ線を初めて観測することに成功しました(図7-2)。X線の時間減衰から半減期は4.6分であることが判りました。バークリウム241はこれまで化学的な分離法によって分離・検出が試みられましたが、半減期が予想外に短かったこと、化学分離ではバークリウム242などの同位体と区別できないことから誰も観測することができませんでした。γ線の観測からは、バークリウム241とその娘核の核構造に関する情報が得られました。この装置を用いて、これまでにバークリウムだけでなく、アメリシウムやキュリウムなど半減期が10分以下の多くの同位体の観測に成功しており、重い原子核の構造を明らかにしつつあります。



参考文献
M. Asai et al., Identification of the New Isotope 241Bk, Eur. Phys. J., A 16, 17 (2003).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2003
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