7-2

ウラン化合物で発見された新しい磁気秩序機構
―ウラン化合物の中性子散乱による研究最前線―




図7-3 U3Pd20Si6の結晶構造

ウラン原子は2種類の異なる結晶学的サイト、4a及び8cサイトに位置し、4aサイトは面心立方格子、8cサイトは半分の格子定数を持つ単純立方格子を形成しています。



図7-4 U3Pd20Si6の磁気構造と磁場-温度相図

矢印はウランの磁気モーメントを示しています。反強磁性相では8cサイトが反強磁性秩序を示し、強磁性+反強磁性相で4aサイトの強磁性と共存します。スピンフロップ相では、磁場によって8cサイトの反磁気モーメントが倒れます。



 ウラン化合物では5f電子が磁性と伝導を担っています。5f電子は、化合物を構成する元素の違いや、圧力、磁場によって、元素位置に止まったり(局在)、結晶中を動き回ったり(遍歴)、その性格が大きく変化します。そのため、ウラン化合物は磁性や超伝導などバラエティーに富んだ性質を示します。今回研究を行ったU3Pd20Si6は、5f電子が局在した化合物です。図7-3に示した結晶構造から明らかなように、ウラン元素間の距離が5.2Åと大きく、ウランがPdとSiで形成されたカゴの中に閉じこめられた構造をしています。これが5f電子が動きにくい理由と考えられます。
 この物質の磁気構造を中性子散乱実験によって明らかにしたところ、ウランの磁気モーメントが互いに反対方向を向く反強磁性秩序と、ウランの磁気モーメントの向きがそろっている強磁性秩序が共存していることが明らかになりました。同一元素によって強磁性秩序と反強磁性秩序が共存する現象は、U3Pd20Si6において初めて発見されました。最低温度の強磁性+反強磁性相では、すべてのウランの磁気モーメントが平行です。この磁気構造が安定化するためには、高次の相互作用が重要な役割をしていることを実験的に明らかにしました。通常、磁石のN極とS極の間に引力が働きますが、高次の相互作用とは、異なる極同士でも、また同じ極同士でも引力が同じように働く相互作用です。この磁気構造に強い磁場をかけると、磁気モーメントが回転して、いわゆるスピンフロップを生じることを突き止めました(図7-4)。この場合に重要な事は、この磁気モーメントの回転が、高次の相互作用と外部磁場の競合によって実現している、新しいタイプの磁気構造変化であることです。
 今後も中性子散乱実験によって、ウラン化合物において新しい相互作用の存在と、新しい磁気秩序や超伝導の発見が期待されています。そして、ウラン化合物の研究が、新しい有益な機能を持つ物質を発見することにつながります。



参考文献
Y. Koike et al., Magnetic Structure, Phase Diagram, and a New Type of Spin-Flop Transition Dominated by Higher Order Interaction in a Localized 5f System U3Pd20Si6, Phys. Rev. Lett., 89, 077202 (2002).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2003
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