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プルトニウム系“高温”超伝導体の電子状態を明らかにした |
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最近、プルトニウムを含む超伝導物質PuCoGa5が発見されました。その超伝導転移温度Tcは18.5Kで、これまで高温と呼ばれるf電子系超伝導体のTcが2K程度であったことを考えると、f電子系化合物としては驚異的な高温超伝導です。これにより、f電子系超伝導体のTcは低い、という従来の常識は覆されることになりました。 さて、PuCoGa5はHoCoGa5型結晶構造を持ちますが、この結晶構造を持つ物質群を総称して“115系”と呼んでいます。PuCoGa5の高温超伝導を理解するための第一歩として、相対論的バンド計算の方法を用いて一連の115系物質の電子構造の解析を行いました。図7-5(a)は理論的に得られたPuCoGa5のフェルミ面ですが、物質の性質を決めるフェルミ面に5f電子が顔を出していることがわかります。図7-5(b)はCe115物質群において典型的な超伝導物質であるCeIrIn5のフェルミ面です。 ここで特徴的なことは、f電子数が異なるにもかかわらず、PuCoGa5とCeIrIn5は非常によく似た擬2次元的フェルミ面を複数枚形成していることです。これは、物性を担うf電子が電子的か正孔的か、という電子・正孔対称性によって理解することができます。それぞれの図の左にCe3+ イオンとPu3+ イオンの電子配置を示しましたが、電子が1個か正孔が1個かだけの違いであることがわかります。そのため、両者はよく似たフェルミ面を形成します。 それでは、PuCoGa5はなぜ高温超伝導を示すのでしょうか? Ce115系と同様の磁気的機構により実現されているとすると、Tcは電子系のエネルギーの大きさでスケールされます。つまり4f電子系よりも遍歴性の大きい5f電子系の方が高いTcを示すことになります。残念ながら、この議論だけでは、同じ5f電子系のU115やNp115が超伝導にならない理由までは説明できませんが、一連の115系物質のフェルミ面を眺めてみると、擬2次元的フェルミ面が複数枚存在する物質で超伝導が発現していることに気づきます。超伝導にならないU115やNp115では、擬2次元的フェルミ面が0枚または1枚しか存在しません。 複数枚フェルミ面構造と超伝導発現の関わりは、まだ完全には解明されていませんが、複数の擬2次元的フェルミ面の存在を手がかりに考えを推し進めると、その条件を満たすPr115系物質で新たな超伝導が発見される可能性があります。果たしてこの予想が正しいかどうか、今後の実験の進展に期待しています。 |
●参考文献 T. Maehira et al., Electronic Structure and the Fermi Surface of PuCoGa5 and NpCoGa5, Phys. Rev. Lett., 90, 207007 (2003). |
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