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コバルトとフラーレンを混ぜて炭素ナノチューブとダイヤモンドができた!




図7-6 室温で蒸着したCo-C60混合物の電子線制限視野回折像。緑色:(100)Co、黄色:(123)Coで、いずれも準安定なfcc構造。赤色:(211)ダイヤモンド、青色:(10-2)Co3C高圧相。



図7-7 熱処理後(300度、真空中)のラマンスペクトル。ナノダイアモンド(1318cm-1)、Co原子列内包単一壁炭素ナノチューブ(1942cm-1)及び単一壁炭素ナノチューブ(1345、1530、1547、1559、1593、1741、1942 cm-1)が明確に観察されます。



図7-8 Coの触媒作用によるC60の高分子化から、熱励起によるCo原子列内包型単一壁炭素ナノチューブへの変換過程を示す概念図。




 コバルト(Co)は遷移金属の典型で、電子を相手の原子に与える能力を持ち、触媒材料、磁性材料として有用な機能を発揮します。一方フラーレン(C60)は電子を受取る能力を持ち、他の炭素同素体に変換されます。これら炭素同素体は、住環境に適合した素材から、ナノテクノロジーやエネルギー利用の新展開に必要な材料として、期待が高まりつつあります。
 私たちはこの2つの物質の特徴を生かすため、両者を強制的に混合した過飽和な状態から出発して、新しい機能性物質を合成するための条件探索を行って来ました。原子レベルで均一な状態を実現するため、CoとC60をルツボで独立に加熱して、MgO基板上に混合物として堆積させました。両者の混合比が同程度だと化学的に安定になり、詳細な解析が可能になりました。
 透過電子顕微鏡観察やラマン分光により、混合物はC60高分子、炭素ナノチューブ、ナノダイアモンド及び黒鉛などの炭素同素体の媒質中にCoナノ結晶が分散した構造を持つことが解明されました。つまり室温でC60とCoを混合しただけで、ナノチューブやナノダイアモンドが合成されたことになります。
 図7-6は、室温で蒸着直後の混合物の結晶状態を、電子顕微鏡を用いて調べた例です。ナノ複合体である薄膜を解析するために、制限視野回折法を利用しています。丸状の回折斑点の配列や間隔から、結晶の種類や格子定数を決定できます。詳細な解析の結果、バルク状態では六方稠密構造(hcp)のCoは、fcc構造になっていることや、Coナノ粒子に結晶学的に整合したナノダイアモンドが成長していることが証明されました。
 一方、高分子化したC60は、真空中での熱処理により、他の炭素同素体へと変換されます。この変換過程の詳細を調べるため、ラマンスペクトルを測定しました  (図7-7)。C60は未だ少量残存するものの、ナノダイアモンドと単一壁炭素ナノチューブの成長がより明確に観察されます。この一連の変化は、Co原子を介在したC60の高分子化と、更に熱エネルギーの助けによるナノチューブ化と、二段階の過程を経て実現するものと理解されます(図7-8)。
 この研究の過程で明らかになった、硬いナノダイアモンドと軟らかい黒鉛からなる混合物は、それ自身で、宇宙空間など、超高真空環境下で有用な固体潤滑材としての役割が期待されます。一方Co原子列を内包すると想定される単一壁炭素ナノチューブは、磁気素子の最小単位になり得る興味あるナノ物質状態で、新規物性発現の夢を秘めています。



参考文献
V. Lavrentiev et al., Co and C60 Interactions under Conditions of Mixture, Mol. Cryst. Liq. Cryst., 139, 386 (2002).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2003
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