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100 万G レベルの超重力で固体中の原子を動かす
―超重力場を用いた新しい物質プロセスの開拓をめざす―




図7-9 自然界の重力場と人工的に得られる加速度場



図7-10 開発した高温・超重力場発生装置の概略図

本装置はタービンモーター、ダンパー、ローターなどから成ります。特に二重構造の特殊なダンパーの採用によって20万rpmまでの回転が可能になりました。ローターは径70〜160mmのチタン合金製で、軸穴のない無垢の構造を採用することにより、強い重力場の発生を可能にしています。



図7-11 超重力場(最大82万G(半径35mm)、150℃、100時間)処理によってIn-Pb系合金中に形成された原子スケールの傾斜構造




 地上(1G=9.8 m/s2)でも水中の泥などマクロ粒子は沈降するし、1万Gレベルの超遠心機を用いて液体中のたんぱく質などブラウン粒子を分離することができます。では、100万Gレベルの強い重力場(超重力場)下ではどのような現象が起こるのでしょうか? このような環境は自然界では白色矮星や中性子星などでしか存在しませんが(図7-9)、誰もが想い浮かべる疑問です。ところが、微小重力場を用いた研究が盛んに行われているにもかかわらず、強い重力場下の物質研究は世界的に未踏の分野として残っています。このような超重力場下の凝縮物質の物理・化学現象を解明して、新しい物質科学分野を開拓することをめざしています。
 今回、物質プロセス研究のために新しい高温・超遠心機を開発しました(図7-10)。本装置を用いますと、100万Gレベルの重力場をこれまでの装置に比べて2倍以上のエネルギーと10倍以上の試料容量で、500℃以上までの広い温度領域で、100時間以上、長時間安定して発生させることができます。
 これまで低融点の合金系を中心に実験を行ってきました。3つの結晶相を持つIn-Pb合金の結果を紹介します。図7-11は中間相のα相単相(In:Pb=80:20at.%)を超重力場処理した試料のEPMA組成分析結果です。重力方向にPbが増加し、Inが減少する連続的な傾斜構造を形成しています。重力側にPb相(A)、反対側にIn相(C)が出現し、相変態を伴っています。格子定数も連続的に変化しており、置換型溶質原子の沈降によるものであることが確認されました。
 この他、金属間化合物、半導体、有機物などで原子や分子の沈降、反応などを観察しており、金属系に限らず多くの系で置換型溶質原子の沈降が起こることがわかってきました。100万Gレベルの超重力場下では各原子間の位置エネルギーの差は熱エネルギーに匹敵し、物質によっては分子・結晶構造、電子構造を変化させうると期待されます。今後、温度範囲をさらに広げ、様々な物質系で実験を進めていく計画です。同位体の沈降も重要な課題です。



参考文献
T. Mashimo et al., Advanced High-Temperature Ultracentrifuge Apparatus for Mega-Gravity Materials Science, Rev. Sci. Instrum., 74, 160 (2003).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2003
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