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微生物が行うキャッチアンドリリース
―希土類元素の吸着・脱離機構を解明―




図7-14 pH4-6の溶液条件下でクロレラ(Chlorella vulgaris)へのユウロピウム(Eu)の吸着の経時変化

接触直後にEuは吸着されるが、その後時間の経過とともに溶液中に排出されます。



図7-15 C.vulgarisに吸着したEuのXAFS解析から得られた動径分布関数(上)及びTRLFS解析から得られた水分子の数(下)

動径分布関数の解析(フィッティング)から、クロレラに吸着したEuの回りには8〜9個の酸素が存在すること、及びTRLFSの解析からそのうち6〜8個が水分子中の酸素であることがわかりました。したがって、クロレラに吸着したEuは水分子が1〜3程度クロレラ細胞の官能基の配位酸素と置換した状態にあると考えられます。




 微生物は生体活動に必要な金属イオンを環境中の希薄な条件から取り込む必要があるため、種々の金属イオンと高い親和性を示す特殊な膜を有していると考えられています。その結果、微生物は代謝に必要でない金属を細胞表面に集めてしまいます。集められた不要な金属はどのようになるのでしょうか。私たちは、モデル微生物としてクロレラを用いて代謝に不必要な金属であるユウロピウム(Eu)の吸着実験を行いました。クロレラに吸着した量の時間変化を測定した(図7-14)結果、クロレラはEuを接触直後にすみやかに吸着しますが、数分たつと吸着したEuはクロレラから脱離しました。放射光を用いたX線吸収端微細構造(XAFS)による解析及び時間分解レーザー誘起蛍光分光法(TRLFS)による解析(図7-15)から、クロレラに吸着したEuは細胞外壁官能基に配位していることがわかりました。溶液中の有機炭素濃度の経時変化から、細胞から有機物が排出されることがわかりました。Euは微生物の生体活動に不必要な金属であることから、吸着したEuが微生物に何らかの刺激を与え、Euを取り除く有機物を排出したのではないかと考えられます。これらの有機物は有害イオンを包み込むことでその毒性を無くす可能性があり、微生物の有する新たな重金属耐性機構が明らかになると期待するとともに、金属回収剤の開発にも繋がると考えています。



参考文献
T. Ozaki et al., Association Mechanisms of Europium(III) and Curium(III) with Chlorella vulgaris, Environ. Toxicol. Chem., 22, 2800 (2003).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2003
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