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長寿命核分裂生成物Tc-99 とI-129 の核変換用ターゲットの選定




図8-1 金属テクネチウム及びテクネチウム−ルテニウム合金の熱膨張データ

調製したロッド(写真)の軸方向の熱膨張測定を実施した結果、金属テクネチウムの熱膨張は金属ルテニウムの熱膨張より大きいこと、テクネチウム−ルテニウム合金の熱膨張はルテニウム濃度の増加とともに減少すること、そして、それらの熱膨張が被覆管候補材の316 ステンレス鋼やクロム−モリブデン鋼の熱膨張より小さいことがわかります。この測定によって金属テクネチウムターゲットと被覆管との両立性が保たれることを明らかにしました。



図8-2 ヨウ化銅と被覆管候補材や銅との反応性試験結果

調製したヨウ化銅ペレット(写真左上)と被覆管候補材や銅との照射温度付近での反応性試験を実施した結果、被覆管候補材であるクロム−モリブデン鋼のヨウ化銅との接触面(写真右)には腐食が生じていますが、銅のヨウ化銅との接触面(写真左下)には腐食を生じていないことがわかります。この結果から、ヨウ化銅と被覆管との間に銅のライナーを入れることにより、被覆管の腐食を防止できることを明らかにしました。




 原子炉で使用した核燃料中にはテクネチウム-99(半減期:約21万年)及びヨウ素-129(半減期:約1570万年)のような半減期が長い核分裂生成物が含まれています。これらを廃棄物として地層処分しようとすると、放射性物質が環境へ漏洩しないように長い期間環境を監視する必要があります。しかし、それらを使用済み核燃料から分離し、中性子照射によってそれぞれ安定核種であるルテニウム-100及びキセノン-130に核変換することができれば、地層処分にかかわる環境への負荷を低減できます。この長寿命核分裂生成物の安定核種への核変換を実現するため、核変換用ターゲットの選定、その熱物性の取得、被覆管との構造設計の両立性の評価などを実施することが必要です。
 テクネチウム-99の核変換用ターゲットとしては金属テクネチウムを使用することが有望ですが、金属テクネチウム及び核変換によって生じるテクネチウム−ルテニウム合金の熱物性データでターゲット選定評価に使えるものはなく、これらの熱物性を取得することが大きな課題でした。そこで、金属テクネチウム及びテクネチウム−ルテニウム合金の試料をグローブボックス内で調製し、それらの熱膨張(図8-1)、比熱、熱拡散率を初めて取得するとともに、熱物性の温度依存性及び核変換の進行にともなって増加するルテニウム濃度に対する濃度依存性を明らかにしました。
 また、ヨウ素-129を核変換するためには、単体では不安定で反応性が高いヨウ素をどのような化合物の核変換用ターゲットにするのかが大きな課題になっています。ヨウ化銅は、金属ヨウ化物の中でも空気中で安定な数少ない化合物でターゲットとして良好なのですが、被覆管と反応して被覆管を腐食してしまう性質があります。そこで、ヨウ化銅ペレットを調製し、被覆管候補材(クロム−モリブデン鋼)や銅との反応性試験(図8-2)を実施しました。その結果、ヨウ化銅と被覆管の間に銅のライナーを入れることにより被覆管の腐食を防止できることを明らかにし、銅ライナー管と組み合わせたヨウ化銅が核変換用ターゲットとして選定できることを、世界に先駆けて提案しました。
 これら金属テクネチウム等の熱物性の解明及びヨウ素の核変換用ターゲット形態の提案によって、テクネチウム-99及びヨウ素-129の安定核種への核変換実現へ飛躍的に前進しました。



参考文献
Y. Shirasu et al., Thermal Expansions of Technetium-Ruthenium Alloys, J. Alloy. Com., 335, 224 (2002).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2003
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