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ベータ鉄シリサイド均一薄膜の作製に成功




図8-5 作製した鉄シリサイド薄膜の透過型電子顕微鏡断面像

鉄シリサイドは凝集しやすく、今までの成膜方法では(a)のように粒状となっていましたが、私たちの考案した基板の表面処理法(特許出願済)によって(b)のように均一で急峻な界面を持つ薄膜作製に成功しました。またX 線回折法の結果から、極めて結晶性の良好な膜であることもわかりました。


図8-6 放射光光電子スペクトルと薄膜の模式図

放射光を用いたX 線光電子分光法によって異なるX 線のエネルギーで測定を行い、非破壊的に薄膜の深さ方向分布を得た結果です。図に示すように表面にSiO2 層があるために、強い耐酸化性を示すことがわかりました。



 今や「どこにでも使われている」化合物半導体には、実は使い終わって捨てると毒性が心配なもの(As)や、もう少しで資源が無くなりそうなもの(In)がたくさん含まれていました。“環境に優しい”未来づくりのためには、もっと安全で、豊富にある元素で半導体を作ることが大変重要です。私たちはそんな条件を満たし、“環境半導体”とも呼ばれるシリサイド系半導体の作製に取り組んできました。
 この中でベータ鉄シリサイド(β-FeSi2)は光センサーや熱電変換素子としての性能が期待されると同時に、放射線に強い材料の可能性があります。ところが、鉄シリサイドは普通の作り方では凝集しやすく、今まで均一な膜を作ることは難しいとされてきました。私たちは、超高真空イオンビームスパッタ蒸着装置を用い、基板表面の処理方法を工夫することによって、100 nm程度の均一な厚みで結晶性のそろったβ-FeSi2薄膜を作ることに成功しました(図8-5)。さらにこの薄膜が大気中に数カ月間放置した場合、いずれの試料においてもほとんど変化が見られないことから、放射光光電子分光法を用いた非破壊深さ方向測定を行った結果、表面に極めて薄い(1 nm程度)のSiO2薄膜が生成しており(図8-6)、このために得られたβ-FeSi2薄膜が非常に強い耐酸化性を持つこともわかりました。
 このような均一薄膜が得られたことによって、さらに電気特性等の物性を向上させ、今後実際の半導体材料として応用するための道が開けました。



参考文献
M. Haraguchi et al., Effect of Surface Treatment of Si Substrate on the Crystal Structure of FeSi2 Thin Film Formed by Ion Beam Sputter Deposition Method, Nucl. Instrum. Methods Phys. Res., B206, 313 (2003).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2003
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